図書館司書資格は一般企業でこそ役に立つ

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図書館司書資格は一般企業でこそ役に立つ

Twitterで次のような投稿が話題になっていました。

図書館司書というのは狭く、しかも厳しい道です。日本のほとんどの図書館は公立図書館なので、正規で入ろうと思ったら公務員になるしかありません。しかもほとんどの自治体で一般職扱い、運よく配属されるのを待つ、という世界です。そのため配属替えのない非正規雇用が多いことも、その道に厳しさがあります。

だからなのでしょうか、図書館司書の業務の真髄、「レファレンス」に触れる方は多くありません。しかしこの「レファレンス」のために学ぶ知識こそが、現代の情報社会を渡り歩いていくのに大切な基礎になると考えています。

私は大学で司書資格を取得するため、専門科目を学んだ人間です。司書資格取得条件には大学卒業も含まれるため、あと2単位でドロップアウトしてしまった私自身は取得できていないのですが……。しかしこの専門科目で学んだ内容というのは、一般企業でも十分に役立つ内容だったりします。

主張だけ先に書いておきましょう。「大学で司書資格が取れるなら、下手に別の資格を取るより実務面で十分役立つので取っておくべき」。仕事に必要な情報を、効率よく集める手助けになります。

司書課程に持ちがちなイメージ=請求記号を覚える?


図書館司書の課程と聞くと、本の背に付いている「請求記号」を丸暗記すると思っていませんか? もちろん、上1けたくらいは何となく覚えます。規則性は教わります。ただ、それを覚えてしまう必要はないです。

(日本十進分類法改訂9版。大学図書館で不要になったものをいただきました)

というのは、請求記号は日本全国の図書館でも共通ではないからです。日本の図書館の多くで利用される「日本十進分類法」は時代に併せて何度か改訂されており、最新版は2014年の新訂10版となっています。しかし改訂されたからといって、大量の蔵書に対してすぐに請求記号を付け直せる余裕はありません。その結果、古い分類記号を使い続ける図書館と、新しい分類記号を使い始める図書館が混在する結果となります。

加えて「その図書館特有の事情」が独自の請求記号を必要とする面も大きいです。一番の例が、日本で発行された書籍のほとんどが集まる国立国会図書館。法律上は政治の中心「国会」の関連施設ということもあり、アルファベットから始まる独自の分類法(国立国会図書館分類表)を採用しています。

また公立図書館では地域資料を取り扱うという側面から必要に応じて独自に割り当てる例が多い、実習の場に近い大学図書館は学科の影響と洋書の取り扱いの都合から、こちらも厳密な日本十進分類法を採用する例は少ないといえるでしょう。

つまり、図書館によって変わってくるので丸暗記は意味がないのです。加えてほとんどの図書目録が電子化された現代では、請求記号は「書架のあるべき場所に配置する」役割が大きく、直接書架から本を探す「ブラウジング」の目安になる程度です。

どこで情報が調べられるかを身に付けるのが司書科目の役割


それよりも司書課程で学ぶ重要なことは、「情報を調べる方法」です。

近年ではインターネット上の情報を集めて多少書き換えただけの「キュレーションサイト(まとめサイト)」が批判の的になることが多くなっています。こうしたサイトの記事は必要な情報へのアクセス機会を増やす一方、時に不正確な情報を延々と拡散してしまう落とし穴もあり、なかなか悩ましい問題です。

私も本業ではある意味こうしたサイトの1つを書いている訳ですが、正確で必要な情報を伝えられるよう内部で抵抗した結果、そしてGoogleの検索アルゴリズムの変化もあって少なくとも自分の見える範囲での状況は改善しつつあるように感じられます。たとえば取材に行かせるようにしてもらったりとか、コラムの作り方が変わったりとか。

しかしなぜ、インターネットで調べられる情報を集めただけの記事にアクセスが生まれるのでしょう。その根底にあるのは、意外と「情報の調べ方」を私たちが知らないという事実です。そして司書課程の科目では、こうした「情報の調べ方」の基礎を学ぶことでプロフェッショナルへの道を開いていくのです。

一度「レファレンス」のすごさを見てみよう


図書館司書の真髄「レファレンス」、日本語では「参考調査」などと呼ばれる業務ですが、そのすごさは意外と知られていません。また小さな図書館ではそもそもレファレンスに必要な体制が確保できていないことも多く、わざわざ聞きに行くのも大変です。

しかしレファレンス事例の一部は、国立国会図書館webサイトで簡単に見ることができます。

レファレンス協同データベース
https://crd.ndl.go.jp/reference/

ここで見られるレファレンス内容はあくまで一部ですが、まるで神業のように感じる事例も挙がっています。一例として、次にあげる事例を見てみましょう。

地図のお寺のマークは、なぜ「卍」なのか。インドからきた印らしい。
https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000079785

この事例を見ると、単純にまんじの示す意味だけでなく、地図記号の付け方についても回答として提示されている点が確認できます。もしも普通に聞かれたら、まんじの意味だけ答えて終わってしまうかもしれません。こうした細かいポイントまでフォローし、解決への情報提示へ結びつけるのはまるで異次元のよう。このほかには神業に感じるような事例も多くあります。

しかし神業のようなレファレンスには、じつは情報収集のコツが隠されているのです。

レファレンスの本質1:調べたい内容を「明確化」する


私たちが何かに疑問を持ったとしても、それはぼんやりとしたものに過ぎません。これをそのまま調べて疑問が解消すればよいのですが、疑問が解消されない結果に訪れることが多いのがレファレンスの窓口です。

そこでレファレンスではまず「調べたい内容を明確化する」というアプローチを取ります。「どこまでの情報を持っているのか」「なぜ知りたいのか」「知りたい情報の核心はどこか」「必要な情報は何か」などです。

たとえば「おいしいハンバーグの本を見つけたい」とレファレンスが持ちかけられたとしましょう。しかしこれだけでは「おいしそうなハンバーグの写真が見たい」のか、「ハンバーグのレシピが知りたい」のか、詳しいところはわかりません。「おいしいハンバーグを提供するレストランが載った本」を探しているかもしれないですね。そもそも「おいしい」の基準って何でしょうか?

レファレンスの基本はこの部分を明確化することで、必要になる情報の見当を付けるところにあると思います。「自分で作りたい」ならレシピの本を探すことになりますし、「近くのレストランで食べたい」なら地域情報が載ったガイドブックを中心に探すことになるでしょう。

SEOに関わっている方はここでハッとする部分があるでしょう。ええ、コンテンツ作りの最初におこなう、「検索意図の分析」です。

レファレンスの本質2:情報の取捨選択


もうひとつ、レファレンスの本質は「情報の取捨選択」にあるでしょう。こちらもSEO対策のコンテンツ作りで意識していかなければならないだけでなく、業務上の情報収集でも重要な考え方です、

たとえば「VOICEROID」について調べている2人の人物がいるとします。そしてレファレンスを通じ、それぞれ「そもそも音声合成についてあまり知らない」「VOICEROIDを自分で使う方法が知りたい」という状況が見えてきました。

この2人に対して提供すべき情報は、もちろん変わります。前者は「音声合成の実例や仕組み」、後者では「実際にパソコンにインストールするまでの手段」の情報を提供したいところ。逆の情報を提供しては何の解決にもなりませんし、両方の情報があっても混乱するだけでしょう。

また「正確な情報」「必要な質」を見分ける能力も必要とされます。たとえば「今日は何の日か」をまとめている人が「エジソンの誕生日」を知りたい場合、エジソンに関する詳しい情報はあまり求めていません。もし百科事典などに載っていれば、その情報を提供しても大きな支障はないですね。こうした検索に特化した書籍やデータベースを「レファレンスツール」といい、その場で情報を提示するクイックレファレンスには必要不可欠なものです。データベースでいえば「ジャパンナレッジ」が代表的。

一方「エジソンの生涯」についてまとめている場合、提示する文献にも正確性や専門性が求められます。さすがに子ども向けの伝記を提示するわけにもいきません(ただし参考文献をたどるために利用する手はあります)。こうした方向けには多少時間がかかっても正確かつ具体的に理解できる文献が好まれることでしょう。

ただしレファレンスでは「情報を提示する」以上、ある程度正確性が保証されたものを必要とします。近年ではインターネットで調査を始めることも多いことから、司書課程ではインターネット上での探索演習なども経験するのです。そもそもGoogleの初期アルゴリズム、被リンク数重視の考え方は「引用されることが多い文献=情報価値が高いと推定される」というレファレンスの考え方に基づいており、Google自体が究極のレファレンスを目指しているともいえますね。。

あ、百科事典を使用する際には索引巻もしっかり利用しましょうね。

「索引語」≒「Googleの検索語」と考えてみよう


もうひとつ、図書館司書のスキルとして重要なものとして「索引語への言い換え」があげられます。

今でこそ目録は電子化されたOPACになりましたが、それでも本の全文を丸々取り込むことは難しいです。一方タイトルだけではブレが大きく、共通する語を結び付けていく必要がありました。これが「索引語(キーワード)」と呼ばれる語群です。

この「言い換え」のスキルはレファレンスだけでなく、Googleの検索にも役に立ちます。日本語の言語解析が難しいことは「音声合成」に絡める形で2019年8月に出した動画内で解説させていただきました。そのため「同じ意味を示す類語」でも、検索では関連付いておらず片方だけでは情報を得られないことも少なくありません。こうしたとき、言い換えのスキルが高ければより速く、必要な情報にたどり着くことができるのです。

「集めた情報の管理」も司書の領域


図書館に入れる本を選書し、目録(OPAC)に登録する作業も図書館司書の重要な役割です。そのためか、司書課程の科目ではデータベースについても学びます。

たとえば業務で必要な「顧客リスト」。Excelで管理する職場がかなり多い気がしますが、大量になるのであれば本来Accessといったデータベースソフトを作成し管理するべきですね。まあ、そもそもAccessが入っていないこともありますが、それは「触れる機会がない=導入の必要性を感じない」という要因も挙げられるでしょう。

データベースの仕組みを知り、利用することで集めた情報の管理効率化に必要な知識を取得する。これもまた図書館司書課程で身につくことです。そもそもExcelって「表計算」ソフトですよ? 決してレイアウトソフトでもないですよ?

業務にパソコンを使う機会も増えてきましたが、意外と情報管理については使いこなしていないことも多いです。こうした分野も、意外と司書資格取得者の出番です。

「司書資格取得」が主流になれば「情報の質」が変わるかも


ここまで読んだ方であれば、司書資格の取得課程は単に「図書館で働く資格を取るため」ではなく、「情報を扱うプロ」になるためのプログラムであることがわかったことでしょう。そして低品質な情報や間違いも多く流れるインターネット、「ウソをウソと見分けることが~」という名言ではないものの、情報を適切に取捨選択し提供する能力が必要とされています。

もしも司書資格を取ることが主流になれば、大量生産された低品質な情報は切り捨てられやすくなります。ソーシャルワーキングなどの壁は上がってしまいますが、インターネットに流れる情報の質はそれ以上に向上することでしょう。

少しでも大学で司書課程を取る学生が増え、それが会社や図書館の採用の仕方によい影響が与えられるよう、今回は筆を執らせていただきました。長文になりましたがここまでのお付き合い、ありがとうございます。

 

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