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Cm(シーマイナー)

「私、そろそろ寿命かな」 目の前で机に座っていた少女は、そう言った。きっかけなどなく、突然。「ど、どうして?」 戸惑うのは当然だ。そんな衝撃的な言葉を唐突に言われ、普通にしていられる人はなかなかいない。「何となく」 特に意味もなく、感じたことをそのまま口に出したのだろう。でなければ、こんなことを言うはずがなかった。「そんなこと、軽く言っちゃいかんよ」「軽くなんて言ってない。数日前からずっと、感じてたの」 でも正直、軽さなんて感じなかった。しかし、軽く聞き流したい。「そっちこそ、軽く聞き流してるでしょ」 心の内を読むかの如く、彼女は僕の気持ちを言い当てる。そんな指摘をされ、彼女は本気で言っているかもしれないと、一瞬だけそう思ってしまった。「だから、今日一日はずっと一緒にいてよ」 表面は明るく繕い心の中には重さを隠す、少女だった。 **第一章** 「私と×××××くんが出逢ったのって、──」 しばらく経って、彼女は再び話を切り出した。「──入学式の時、だよね? この高校って迷路みたいだったから、私、迷っちゃって。その時にあなたと巡り逢って」 記憶が甦ってくる。確かに、どこかで聞いたような、作り話のような出逢い方だった。「それで、クラスが同じだから一緒に戻ろうって言われたけど、結局二人で迷っちゃったね」「ああ」 見栄を張って言ったものの真っ直ぐ教室には帰れず、恥ずかしかった。「そうだ、あの時の場所に行こうよ」 目を輝かせて、彼女は言う。けど僕にはどこのことを言っているか判らない。なので「あの場所?」と聞き返す。「ほら、偶然辿り着いたあの場所。落ち葉に溢れてるけど異様に落ち着ける、あの場所だよ?」「ああ、あそこか」 やっと思い出せた。特別教室棟西側にある、非常階段のことを言っている。「……行こう。今すぐ行こう」「う、うん」 そして僕は、教室から彼女を連れ出した。    *** 「やっぱり懐かしいね、ここ」 下に降りても柵があって通り抜けできないので、こんな所に来る人は滅多にいない。特別教室棟西側、一・二階の間にある非常階段の踊り場に俺達はいた。「あの時なんで、こんな所まで来たんだろうね。全然教室から遠いじゃない。何か、アホらしいな」「何かに、惹かれたかもな」「かもね。──でも、ちょっと寒いな……」 そう言って、彼女は僕の左腕に抱き着いてくる。腕に何やら柔らかいものが当たってドキッとするが、「うん、これであったかい」と無邪気に言っていたので、気にしないことにした。そして、彼女は突然歌い出す。「♪~ うさぎ追いし かの山 小ぶな釣りし かの川 夢は今も 巡りて 忘れがたき ふるさと ~♪」 小学校の時に習ったことのある、「ふるさと」という曲。日本を代表する歌を挙げるとしたら五本の指に入る程の有名曲だが、何故ここで歌うのかが判らない。「赤く染まった夕方の空、遠くから聞こえてくる『ふるさと』のメロディー。この組み合わせが好きなんだ」 嬉しそうに彼女は言う。確かに、視界を覆う木の枝の葉のその隙間からは、赤い光が射してきていた。    *** 「もうそろそろ、帰ろうか」 僕が提案すると、彼女は静かに「うん」と頷いた。それでも左腕は離してくれない。まあ誰かに見られるといった心配もない時間だったので、そのまま教室に戻った。教室に戻って、やっと彼女は腕を離してくれた。 帰り支度をしている間はお互い無言。先に終わらせたのは僕の方。少し間があって彼女が支度を終えると、「寒いから」と言い訳のように呟いて、さっきのように抱き着いてきた。これで帰るとなると、さすがに周りの視線を耐え抜く根性はない、そう思っていた。けど実際にその状況になるとそんなの関係ない。愛しいと思うことが出来れば、周りなんてどうだっていい。 学校を出て、駅まで続く坂を下る。彼女が行きたいと言ったのは、駅前にあるデパートだった。そこの屋上に、映画館がある。ブームからは少し外れた作品を一本観て、僕達は外へと出た。 辺りはすでに夜。デパートの看板を照らす照明でこの場所自体は比較的明るかったが、屋上から見える景色は黒の背景に白い点をたくさん落としたような、満天の空を地上に持ってきたような、そんな夜景だった。僕は単純にきれいだなと思うが、彼女はどこか悲しそうな表情をしている。「何か、思うことがあるのか?」「……うん、ちょっとね」 彼女は一度目を閉じ、そして少し上を見上げながら語り始める。「近くから見る電灯の光ってとても明るいけど、こうして遠くから見ると小さな光が集まって、それでもまだ、明るいとは言えない。不思議だよね。──人間も、そうなのかな。いくら輝いてる人だって、群衆に紛れてしまえばただ一人の人間。死んでしまえば、芸能人や社長だったら少しは豪華だけど、普通にお葬式やって、火葬したら同じような骨の塊になって、他愛のないデザインのお墓が幾つも並ぶ中に埋められる。……人間の価値って、何だろうね」 そして彼女の目に、一筋の涙。その筋は二つ、三つと多くなっていき、やがて頬全体を濡らす。「……やだな、私。こんなに取り乱しちゃって」 その姿を見て、自然に言葉が出てきた。「──確か、今日一日ずっと一緒にいてって言ったよな?」「……うん」 彼女は不思議そうな目で、僕を見る。「なら本当に、午前〇時まで一緒に居ないか?」「……えっ」 その大胆さに、自分でも驚いた。けど今、彼女を独りにしたくない。その想いがはっきりと、心の中で主張している。「そんな、悪いよ……」「自分がそう思ったから、そうしたいから、提案したんだ」「……明日の授業は?」「大丈夫、学校に置いてある教科ばかりだから」「……うん、じゃあえっと……」 戸惑いつつも彼女は、尋ねてくる。「私の家に、泊まらない?」

机上詩同好会(ショートショート版)

〈第0幕〉  ある日の夕方。×××××室の中に独り、少女がいた。少女は机に座り、あてもなく窓から外を眺める。そして独り言を呟く。「最近、何か私おかしいな……」 今まではそうでもなかったのに、最近はすごくだるくていつの間にか眠ってしまう。夜もちゃんと寝ているのだから寝不足ではない。原因は、少女にもよく分からない。「それに、親も何か隠してるし、あの夢か……」 少女が見た夢、それは自分が眠るように死んでいく夢だった。いつも通りに寝て、朝になっても自分は起きない。親が声をかけても、いっこうに起きない。そして親が揺り起こそうとして肩に手をかけるとすでに冷たくなっていた、というそんな風景を客観的に見ている夢。少女にはそれがリアルすぎて。「私、そろそろ寿命、なのかな……」 考えたくもなかったが、何度思い返してもその結論に達してしまう。それが悲しくて、少女は涙をこぼす。そんな現実、受け入れたくない。その気持ちは当然あった。そして俯くと、目の前の机に書いてある一つの詩が目に入った。 我慢して やりたくないことをやることはあるけどそれでやりたいことを 制限される必要なんてないむしろやりたくないことをやった分だけやりたいことを やればいい 「そっか……」 もし「死ぬという現実を受け入れる」という事が「やりたくないこと」ならば、その分だけ「やりたいこと」をやればいいんだ。少女はそう感じた。私の「やりたいこと」、それは「×××××くんのそばにいる、こと……」 くしくも、これはいつも彼が座っている席の机。もしかしたらこれを書いたのは彼かもしれない。なら。「この教室の机に落書きされた、たくさんの詩を集めてみたい。もちろん×××××くんと一緒に」 きっと付き合ってくれるだろう。そう思いながら少女は微笑み、そして宣言する。「私は部活を作る。名前は『机上詩同好会』。机の上に書かれた詩を集め、評価し、そして新しい詩を書くこと、それが活動内容。そして設立は、明日」 明日の授業でこの教室を使う。だからその授業の後に私は×××××くんに声をかける。少女はそう心に決めた。

世界リポートの日常?

 愛知県某所・えちからちゃんねる運営事務局。ここにはラジオ収録ブースが併設されている。「今回の『Line戦線異状なし』は──『警察無線』ですね、判りました」 収録ブースに入りスタッフと打ち合わせをしているのは「さくらの♪世界リポート、ねくすとっ!」のサブパーソナリティ、荒畑百花である。名古屋の大人気ユニット「MS W」に所属する姉を持つ中学三年生であるが、この番組に参加して以来姉よりも人気が出てしまったという不思議な魅力を持つ。「しかし何故こんなマニアックな話題に?」 幼さの残る彼女が聞く相手は、黒い三角帽子とマントに身を包んだ人間。放送作家の役割をこなそうと頑張る愛知川香良洲だった。なお、決して怪しい人物ではない。かけてい るメガネは伊達だけど、決して。「まあ正直、ネタ切れです」「あっさりと真実を暴露しないで下さいよ……」 二人が打ち合わせを進める裏で、スタッフはジングルのテストなどを進めている。とは言っても特に効果音などは必要のない番組。放送作家がいつの間にかタイミングを指示し なくなったせいであるが、念のため一応セットはされていた。「アバンのトークは──え、私達任せですか?」 事前に配布された簡単な進行メモを見て、百花は驚く。「うん、ガールズトークはやっぱりキツいよ。あまり深入りできないし」「まあその辺りはさくら先輩と何とかしますけど……、どんなのになっても文句はなしですよ?」「大丈夫大丈夫、編集かけるから」「掲載三日前ですけど……?」 そこに、「来たぜ~♪」 ツイッターでの呟き業務を一時抜け出し、えちからちゃんねる広報の「えちからさん」がやって来た。なお彼女は一時的に暇を持て余しているため参加しており、三月末に「ね くすとっ!」編が終了するまでの期間限定出演である。それ以降は業務の都合で深夜しか空きがないため。百花が中学三年なので労働基準法の規定上時間が合わないのだ。「あ、香良洲さんがアバンのネタを考えてって」「そうだな~♪ もうこのスケジュールに文句言っちゃえば~?」「いいですね、それ。──香良洲さんも文句ないですよね?」「いや、他の話も……」 作家側としては、あまり内輪ネタは取り上げたくない所である。「善処します~♪」「と、いうことです。先輩が来るまでにある程度内容は固めておかなければなりませんし」 打ち合わせは今回のテーマ、警察無線に移る。百花の手元には詳細な資料が用意されており、彼女の手でポイントなどがメモされていく。「えっとまず県内系のと署活系ってのがあって……、あ、部隊活動系ってのもあるんですね」「あとWIDEね。警察専用の携帯電話のようなもの」 なおこれについては本番になって皆の頭から抜けていたのだが、打ち合わせの段階では確認している。「そしてAPR形、SW形、UW形にそれぞれ対応していると。あ、WIDEってのはそれ自体が形式のようなものなんですね?」「そういうこと」「『Line』で出てくるのは、『県内系』『部隊活動系』の二つですよね?」「そういうの、本番に言うのとかどう?」「あ、いいかも」 そういうやり取りを交えつつ、打ち合わせは進んでいく。そして本番予定時刻五分前。「ギリギリでいつもすみません♪」 MSWの人気一番手、徳重さくらがスタジオに入ってきた。現役の高校一年生であり、スケジュールもかなりハードな状態。しかし笑顔である。「先輩、とりあえず今までは──」 百花が簡単に、打ち合わせで決まった内容を伝えていく。あえて一般人に近い彼女を起用したのは、活動で忙しいさくらの負担をこういった形で少しでも軽減する狙いがあっ た。「──オッケー。じゃあ収録いこっ♪」「いつも通り途中から使っていくのでその辺りよろしく」「使えるネタを最後にってことだね♪ 了解っ」 自然に入っていくようにするため、最初の方は特に内容とは関係の話になることが多い。アバンタイトル部で使われるのは終盤のごく一部である。「じゃあ何から話そっか?」「そうですね……そういえばこの前、近所のネコがでんぐり返しをしてました」「ネコってそんなことするんだ♪」「いや、たまたまかもしれませんけど」「どんなネコでしたか~?」「えっと、普通の三毛だったと思います」「じゃあ多分メスだね♪」「そういえば三毛猫は遺伝子の関係で大半がメスなんですよね」「聞いたことありますよ~♪」「でオスには繁殖能力がない場合が多かったり。まあ割と有名な話だけど♪」「イヌだとでんぐり返しするんでしょうか?」「うーん、まあ超小型犬なら出来そうな感じが」「ドーベルマンがやったら恐いかも~♪」「でもチワワとかならいけるよきっと♪」「一時期ブームになりましたね。確かCMでしたっけ?」 だんだんと会話は盛り上がってくるが、収録の時間にも限界がある。放送作家がカンペで指示し、百花が話題を持っていく。「そういえばさくら先輩っていつも大変ですよね」「そう? まあ慣れちゃったから♪」「ギリギリで入ってくる予定とかあるんですか?」「そうだね……確かに多少はあるかも」「テレビとかですか~?」「まあ時々。そういえば──」 そしてここからが、実際の「さくらの♪世界リポート、ねくすとっ! 第21回」で使われた部分である。「──香良洲さんの予定って正直ギリギリだよね♪」「まあ押してますからしょうがないですよ。解消する努力もしてますし」「来週は『増刊号』もあったりしますがね~♪」「あ、どうするんだろう?」「色々遣り繰りすれば……」「ま、多分何とかなる♪」「それはそれでいいんですかね」「大丈夫なのです~♪」 実際に使われたのはここまでであるが、会話は続く。「その辺りのスケジュールの予定についてどうお思いですか、香良洲さん♪」 話をいきなり振られ、放送作家役に徹していた香良洲は驚く。「まあ増刊号もありましたし……今後ゆとりが出てくるんじゃないかと」 ちなみにそれは事実である。原稿の上がり方が半端ではないスピードになりつつあった。「え~?」「まさか、そんなことはありませんよ」「嘘つき♪」「……」 放送作家の言葉が出なくなった所で、一旦収録が切られた。 「ありがとうございました~♪」 アバンタイトルのみ参加の「えちからさん」が収録ブースから退出し、一旦仕切り直しのため確認作業が再度行われる。「えっと、オープニング後のトークからスタートですよね?」 最後にさくらが確認し、放送作家の役割をしている香良洲が頷く。「では適当なタイミングでどうぞ」「ラジャーっす。百花ちゃん、大丈夫?」「問題ありません」「じゃあいきますか♪」 コホン、と咳払い。右手で前髪から耳にかかる髪を払い、さくらの本番モード。「改めまして、徳重さくらです♪」 百花も続けて入る。「荒畑百花です。念のため話しておきますが、今週は掲載の三日前から書き始めていますよ」「この後のことを考えれば充分ギリギリだけどね♪」 放送作家役の香良洲、苦笑い。まあ仕方がないことである。「とにかく、さくら先輩は早くコーナーを始めましょうね」 百花にフォローされ、いよいよ面目が立たない。「オッケー。『Line戦線異状なし!』ということで今回は警察無線について♪」「また何とコアな話題を」 この辺りは事前の打ち合わせ通り。とはいっても百花の正直な感想ではあるのだが。さくらは資料に持ち替え、あらかじめメモした要点をチェックしながら説明を始める。「まず現在の警察無線は主に四種類に分けられるよ。でも治安上の都合やプライバシー保護の観点で全てデジタル化されてたり。まずは『県内系』。これはその都道府県警察が管 轄する全域をカバーするために使う県内共通の帯域で、警察署はもちろんのことパトカーなど警察車両にも無線機が設置されてる。使われる無線機はAPR形というよ」「なるほど」「中継局を通して広範囲との通信が可能だから、本編中だと現地対策本部と第一中隊長間のやりとりがそちらだね」 次の説明にいくようにとの指示が、百花に伝えられる。うまく切り替えるには話題振りが不可欠だからだ。「あと確か、部隊活動系ってのがあったような」 「Line」本編からの振りは打ち合わせ通り。百花自身の発案である。「正解♪ これはUW形っていうんだけど、主に機動隊で使われる無線形式。他にもまあ、必要に応じて使われてたり。無線だから実際にはコールサインがあるだろうけど、そう なると描写が煩雑になるのでその辺りは省略をかけてるよ?」「では交番のお巡りさんが着けてるようなあれは、なんですか?」 この振りは「Line」本編に描写がなかったため。放送作家役による提案である。「それは『署活系』。SW形っていうんだけど、警察署単位でやり取りをする無線。今回は出てきていませんが。香良洲さんの今後の作品に期待しましょう♪」 ここで時間のチェックがかかり、放送作家役のエンディング突入指示。資料もブースの机で散乱していたため、四種類目「WIDE」の解説をしていなかったことには気付かず エンディングパートに突入する。「……まあ、無茶振りがかったところでエンディングだそう。そういえば明後日は何だかんだで更新可能だそうですけど、何かやるんですか?」 百花は若干の違和感があったが、とりあえず指示を守って進める。「『殺す気か!』と香良洲さんが見てるので、多分何も。でもまあ、いつも通り『イラスト』とか描くでしょ?」 さくらは気付かず、そのまま普通に進めていく。ちなみに話題になった日の更新は行われなかった。「……とりあえず期待しないでお待ちください」「『えちからさん』がツイッターで呟いてますよーってのはいつも通りのお知らせだね。そして来週は『増刊号』とかがあります♪」 毎月一日(木曜の場合には翌日)には「増刊号」と銘打ち、さくらとその先輩・鶴里 翠の番組が掲載される。「……どうせ私は出ませんけど」 これは百花の正直な感想。本当ならば出たいが色々な都合があって出られないのだ。「香良洲さん、ちゃんとネタ考えといてよ? ──という所で今回はおしまい。徳重さくらと♪」「荒畑百花でした」「まるっ!」 最近何故かさくらがハマっている挨拶。ラジオ由来であるが、現在ではアニメで出てきているためブースの中で「まるっ」と手で大きな円を描く仕草も行っている。「……何の関係が?」 百花が呟いた所でエンディングの音楽がかかる。今回の収録はこれで終了となった。「今回もまあ、何とかなりましたね」 百花が一回溜め息を付いた後呟くように言う。確かに内容的にはあまり上手くはいっていないが、何とか形にはなったという感じである(ミスにはまだ気付いていない)。「時間的にもギリギリって感じで♪」 時刻は午後七時五十二分、労働基準法の関係で八時には収録を終わらせなければならないのだ。「じゃあ百花ちゃん、一緒に帰ろっ♪」「さくら先輩、仕事は?」「もう入ってないよ? どっか寄ってく?」「そうですね、なら夜御飯に何か食べたいです」「奢るよーっ♪」「そんな、いいです……」「じゃあお疲れ様でした♪」 二人は笑顔を振り撒きながら、収録ブースを出ていく。しかし編集作業はまだまだ続くのだ。 編集が終わって番組が形になった時、時刻は〇時を回っていた。

思いつき。

「ねぇ、今度ここで競走しない?」 耳を疑った。「……どこで?」「ここで! マラソン大会があるんだってさ」「……へぇー」 名古屋駅桜通口(東口)から四方へ広がる大地下街の一角、とある喫茶店で休憩を取っていた時。僕の幼馴染みである黒川 なしろは巨大スイーツを食べ終わるなりこの話をし 始めた。 別に、マラソン大会があることを知らなかった訳ではない。この喫茶店の入り口をはじめとして至る所にポスターが貼ってあるし、テレビのニュース番組で名古屋市長が「名古 屋といえば地下街だがや。地下街で何かやろまい」と言っていた。その時の構想は駅伝大会で、「名駅で駅伝」と可能不可能を考えず盛り上がっていた覚えもあるが。「コウくんも中学の時、足速かったでしょ?」「いやいや、五十メートルとマラソンじゃ雲泥の差だよ」 ちなみに僕は、日比野 航という。市内の某公立高校に通う一年生で、それはなしろも同じ。だが学力には格段の差があって、何故なしろはもっと高いレベルの学校へ行かな かったか不思議でならない。今日は土曜日ということで学校は休み、なしろの買い物に付き合わされたのだ。曰く「女の子一人じゃ入りにくい店もあるし、買う物も多いから荷物 持ちが必要でしょ?」だそう。まだ何も買ってはいないが。「勝った方が何でも言うことを──じゃなくて、負けた方が勝った方の言うことを何でも聞く! 不戦勝もありってことで」 それは、参加を強制しているってことだよな? 過去にも同じ条件で勝負して負け、女装してなしろの家に行くというえげつないことをさせられた覚えがある。おまけになしろ の母親から「あら、可愛いお友達ね」と言われ、二重にへこんだ。 なしろはどこからかチラシと参加用紙を持ってくる。「第一回・なごや地下街ミニマラソン」と大きく書かれており、よく見るといくつかのコースに分かれているようだ。名駅 コースが三キロで栄コースが一・八キロ、伏見コースが四百メートルといった感じ。日時は一ヶ月後の土曜日深夜、二十四時から二十六時までの間にスタート。定員はそれぞれ百 二十人。「どのコースにするんだ?」「もちろん、一番長いのに決まってるじゃない!」 相変わらず負けず嫌いだな、と思いながら僕はコース説明に目を落とす。「えっとコースは──ミッドランド・スクエアからスタートしてミヤコ地下街に向かい、そこからサンロード。ユニモールをぐるっと回って階段を降り、桜通線改札外コンコース を経由しファッションワンか」「さらにエスカから地上へ出て、JR中央コンコースを走り抜ける、その爽快感! 桜通口で再び地下に潜って最後は照明の演出が素敵なルーセントアベニュー、ゴールはルーセ ントタワー。ほら、想像しただけでも楽しそうでしょ!」 なしろが嬉しそうに言う。「……まあ、貴重な経験には」 ところで、名古屋人以外にもこの説明で通じるのだろうか。いや、名古屋人でさえ解らない人にはさっぱり解らないはず。簡単にまとめれば、同じ所を通らずに距離を長く取れ るルートだってことだ。「それよりこんな深夜の大会、親が許可してくれるか?」「それを突破せずに、マラソンで優勝できると思う?」 僕だけでなく、皆に勝つつもりらしい。目標が高いこと高いこと。「そうと決まったらすぐに申し込んで、それからコースの下見!」 買い物はいいのか、とは聞かない。    ***  まあ途中でコースを外れ買い物もした訳だが(アニメショップの女性向けコーナーに長時間滞在させられ視線が痛かったのはスルーする方向で)、実際歩いてみるとかなり階段 は多い。同じ平面上にあると思い込んでいたサンロード・ユニモールの各地下街間にも段差があったりした。こんな所でマラソンなんかやって、事故が起こる可能性を考慮してい ないのだろうか。まあ、理屈抜きの思いつきでなければこんな大会は行われないだろうけど。 大会までの期間はなしろに付き合わされ、毎日学校から駅の間、そして自宅の最寄り駅からは遠回りし川沿いを走り込む。「でも何で、僕も練習に巻き込むんだ?」「勝負はイーブンじゃなきゃ、楽しくないじゃない!」 汗でセーラー服をベトベトにしながら、なしろは満面の笑顔で言う。勝ちたいんだか、それても勝たせたいんだか。 そして当日。 出場者は二十一時集合、場所は閉店後のミッドランド・スクエアの商業スペース。こんなに早い時間なのは混雑を避けるためともう一つ、出走順(競馬でも自動車レースでもな いが)を抽選で決めるため。事故防止の観点からスタートは十人ずつ、十分間隔で行う変則的なルールだ。その結果なしろとは別の組になって「タイムで勝負よ!」という方法に 変更。記録は運営側が取り各々に記録証が渡されるからちょうどいい。 荷物は各自でゼッケン番号が入った札を付けた後、大会事務局によってゴール地点の休憩スペースへ運ばれていった。それからしばらく経ちなしろのスタート直前、「髪、後ろで結んだんだ」 いつもは黒くて長い髪をそのまま流しているなしろの、ポニーテール姿を目撃した。「うん、スポーツ少女みたいでしょ」「まあ、な」 少し動いただけでも揺れ、気になることこの上ないが。「負けないわよ?」「もちろん、こちらこそ」 先になしろの方がスタート。二組遅れて僕の番。 スタート位置につくと、テレビカメラがやたらと目に入る。地元のテレビ局がマルチ放送技術を活用し各コースを生中継しているのだ。系列のBSでも放送しているらしいか ら、一応は全国中継でもある。 時間になり、「パン」とピストルの音が鳴らされる。同時に、反射的に足が動き出す。同じ組になった中年のおじさん達をスタート直後から引き離した。至る所至る所にカメラ があるので、素材として使われているかもしれないが、それが嫌という感情よりはなしろに勝ちたいという気持ちの方が優に上。早々にへばりかけていた前の組の面々をユニモー ルで抜かし、彼女の組はJR中央コンコースの辺りで見えてきた。そのまま追い抜いて驚かせようと思ったが、そこに頭で後ろ髪が揺れる少女はいない。(リタイア──いや、僕と一緒か) もっと前を走っているに違いない。僕はペースを上げてその集団の中を通過した。 しかしなしろの姿は最後まで見えず、ゴールのルーセントタワーへ到着。完走者の休憩所に向かうと「あ、おつかれコウくん」 なしろは汗をたっぷりかいて、タオルにくるまりながらも笑顔で僕を迎えた。まあそうだとは思ったさ。「なしろの組まで追いついたけどいないから、びっくりしたぞ?」「私は、三つ前まで抜かしたよ」「……がんばったな」 さすが、負けず嫌い。「目指せ優勝だもん。──コウくん、覚悟しておいてね?」 何でも言うことを聞く、か。とんでもない約束をしたものだ(拒否権も与えられなかったが)。 マスコミ的には日付が切り替わる午前五時頃になって、結果が出揃った。そして優勝者が発表される。「優勝は、名古屋市港区の吉田 茂春さんです。タイムは──」 一番最初の組で走った七十歳の健康おじいちゃんらしい。あまりにも速くてJRコンコースの封鎖が綱渡りだったそうだが。 それぞれの手元にもタイムが記された完走証が配られる。もちろんすることは一つ。「じゃあ『せーの』で言うよ? せーの、」 僕となしろは、ピッタリシンクロした。つまり同じタイム。「引き分けか?」「そうみたい、だね」 追い抜いた人数の差は、その面子のスピードに差があっただけのようだ。「それで、引き分けの場合は?」「……お互いが、お互いに言うことを聞く。あ、一方の命令を打ち消すようなのはなしだよ?」 うわ、先回りされたか。しかしそれ以外になると簡単には……。「私はね……、キスして欲しい」「……はい?」 いったい何を言い出すのか。「だってさ、コウくん以上に魅力を感じる男の子っていないもん」「まさか……そのためだけに」 なしろは顔を真っ赤にしながら、微かに頷く。その仕草はとてつもなく可愛いというか。それが言いたいがためだけにマラソンを走るなんて、どうかしている。でもそんな恋心 は、僕にもちゃんと伝染した。「しょうがないな……。なら一緒の大学に行けるよう、勉強を教えてくれよ」「うん、もちろん。──ずっと一緒だよ」 そしてなしろは僕に抱き付いてきた。「ちょっと、汗でベタベタだけど──」「そんなの、お互い様だよ?」 まあ何処かのお嬢様じゃあるまいし、気にしないか。「……ずっと前から、好きだったんだから」 そう呟きなしろは目を閉じる。柔らかそうな彼女の唇に、自分のそれをそっと重ねた。 そしてその光景は居合わせたテレビカメラでバッチリ写されており、ニュースにも使われたりして全国至る所に流れたらしい。僕となしろは学校中で、いやしばらくの間は会う 人会う人皆から注目されることになってしまった。まあ恋は盲目って言うし、それぐらいのペナルティーなら。    *** 「へぇ、第二回はやらないんだ」 一年後。僕達は例の喫茶店に来ていた。幼馴染みと荷物持ちという不自然な関係ではなく、カレシカノジョというある意味自然な関係になって。「まあ準備とか大変だろうしな。クレームも入っていたみたいだし」 地下鉄の改札はほとんど閉鎖されたし、JRのコンコースでは混雑する中で無理矢理設営したらしい。また距離が短い点や、観客スペースがないことも問題視されたとか。僕達 の件も、多少あるという。「でもそれはそれで、レアな体験だったってことだね」「……そうだな」 幼馴染みに告白されるとは思っていなかったし。「じゃあ行こっか。久々にコースを歩きながら、買い物するよ」「例の店も行くのか?」「もちろん!」「……やれやれ」 たった一回だけの、地下街を使ったミニマラソン。だけど僕となしろにとっては、大切な一回だった。思いつきと思いつきが重なって、僕達の関係が変化したのだから。

裁き

「……次は誰が来るんだろう?ま、僕が全部倒しちゃうけど。」 少年が独りで、つぶやいている。周りにはしみ一つない、真っ白な空間。 その空間が、歪んだ。「あら、来たみたい。まあいいや、相手してあげよ。」 その言葉には余裕の表情が見える。彼は一度も負けたことがない、いや傷付いた事がない。どんな敵に対しても一撃必殺の技で、”殺した”。「ようこそ、2132159人目の挑戦者さん。」「君が、”アキ”くんだね。君に会えるのを待っていたよ。」「え……どうして僕の名を…──うっ」 ”挑戦者”は少年が自分の名前を言われて驚いている隙を狙って蹴りを入れた。少年は不意を突かれ、血を吐いた。「ボ……ボクに攻撃をしたな……」 少年は大剣を抜き”挑戦者”の腹部目がけて一斬り。いつもだったら命中して(しんで)いるのに、振り返ると”挑戦者”は何事もなかったかのように、立っていた。「な……なんだって……僕の攻撃が外れるなんて……」「自分を過信したおろか者よ……、くらうがいい。天の裁きを……」「え……あなたはもしかして──」 少年が最後まで言う前に、少年の命は散った。 いや、ある神の裁きで消え去った。 後には何も残っていなかった。いつのまにか挑戦者であった女性も消えていた。 唯一、少年の剣だけが残された。剣は床に、突き刺さっていた。

裁き[改訂版]

 少年は、呟く。「……次は誰が来るんだろう?」 周りには染み一つない、真っ白な空間。その中に小柄な少年が独り、身の丈程もある大剣を手に、立っている。「ま、ボクが全部倒しちゃうけどね」 その言葉を発すると同時に、突如その空間が歪んだ。「あ、来たみたい。まあいいや、相手してあげよ」 少し微笑みながら、少年は再び呟く。彼は一度も負けた事、いや傷ついた事さえなかった。どんな敵に対しても一撃必殺の技で、「殺した」。「ようこそ、二百十三万二千百五十九人目の挑戦者さん」 どうせ、すぐに終わってしまうけど。少年はそう思っていた。相手は白いブラウスを着た少女。こんなかよわそうな女、どうしてこんな所に来たんだ? そうも少年は思っていた。「君が、」 少女が発する言葉は、少年を驚かせる。「『アキ』くんだね。ずっと、君に会えるのを待っていたよ」「え……どうして僕の名を───うっ」 少女は自分の名前を唐突に言われ驚いている少年の隙を狙い、腹部へと飛び蹴りを食らわせた。不意を突かれ少年はまともにその攻撃を食らい、血を吐く。「ボ……ボクに攻撃をしたな……」 少年は怒っていた。すぐに少女に向け剣を振りかざす。間合い・速度・力加減とも全て完璧で、いつもだったら命中して(しんで)いるのに、振り返ると「挑戦者」たる少女は何事もなかったかのように、立っていた。最初と表情一つ変えず。「な、なんだって……ボクの攻撃が外れるなんて……」 少年が呟くと、少女は左手を少しだけ上げる。手のひらにはどこからか、光の球が生まれ大きくなっていく。「自己の力を過信した愚か者よ。今までこの世から欠けさせた二百十三万二千百五十八余の報いを、そして天の報いを受けるがいい……」 少女は左手にできた大きな光の球を、ボールを投げるようにして少年へと向ける。咄嗟に少年は剣を盾にするがその剣をも「透過」し、少年に当たると同時に焼き尽くす。「え……あなたはもしかして───」 少年の言葉は、最後まで届かず消えた。少女はため息をつき、目を瞑る。「このような者を再び生まないよう、しっかりとこの世を監視しておかなければなりませんね。まあ、なかなか大変な事なんですが」 少女は呟き、そして消えた。真っ白な空間には剣だけが残される。 しかし主を無くした空間は、そのうちに消えた。

二月十六日金曜日。

 春はもうすぐ来る、それは分かっているが寒すぎる。学年末テストはもうすぐだが全然勉強していない。まあ、受験は来年だ。多分、大丈夫だろう。 テスト週間で部活がない。つまらないが、楽だ。家でのんびりできる。けど親に勉強しろと叱られる。それは嫌だ。 学校の授業が終わり家に帰ったら、ケータイにメールが入っていた。友達からだ。適当に返事を打って送っておいた。返事は、返ってこない。 何もする事がないから勉強でもするか、と思った。ふと窓を見ると何か白いもやのようなものが上から降っている。何だろうか。 外へ出てみた。それは、雪だった。そういえば雪を見るのは何年振りだろうか。まだ春は来ないのだろうか。いつ春が来るだろうか。春はもう来ないのだろうか。 そんな事はない、春は絶対来る。そう心に思う事にした。地球温暖化は進んでいるが、まだ季節は動いているはず。庭には桜の木が春はまだか、まだかと待ちわびている。けど、いつかは来なくなるかもしれない。その日をなるべく遅くしたい──そう思った。将来は、-<Fin>-

行動と、想い。(SS版)

 少年が一人、街の中で立ち止まっていた。彼の眼に見えているのは人間の、腕、だけ。「腕だけでも結構、どんな行動をしているか分かるもんだなぁ」 手を繋いで歩いていたり、立ち止まって本を読んでいたり。近くには音楽を聴いているらしく微かにリズムを取っている腕も居る。少年はそんな光景を眺めながら呟いた。 すると突然、少年の視界が何者かの手によって塞がれる。少年はビックリしつつもそっと、その腕をどけると。 街の光景は、いつも通りに戻っていた。「けど腕だけじゃ、細かい気持ちは伝わってこないよ?」 少年の背中側から一人の少女が顔を出してきて言う。少年は少し驚きつつ尋ねる。「で、×××××さんは何で此処に?」「───だって、あなたが好きだから。」 顔を赤らませながらも、少女は言い切る。「え!?」少年は今日一番驚いた。

この空は昔にも続いている。

 午前七時。いつも通り、NHKをつける。『午前七時のおはよう日本です。──今朝早く、愛知県尾張旭市の通称「白山林」にて野宿をしていた男性達が何者かに襲われるという事件がありました。現場上空から中継でお送りします』 珍しい事件だな、とその時は思っていた。それが初めて接した異変だったということを、後に知ることになる。 テレビの画面は住宅地の一部に森林が残るだけという、野宿するには違和感のある地域を映し出す。しかし、「変わった趣味だな」と思っただけだった。ザバゲーなんてのがある訳だし。『現場上空です。被害者が野宿していたのは画面に見える林の中であり、警察の調べでは、襲撃者は画面の上方にある川の方面からやってきたとのことです。襲撃者は住宅地方面に逃げた人々を容赦なく日本刀で斬りつけ、画面の下、南の方向に逃走したといいます。現場には多数のパトカーが停まっており、現在現場検証が行われています。また、臨時の救護所が近くの小学校に設けられ、生存者の治療が行われています──』「物騒な事件ねぇ~」 隣で観ていた母親が他人事のように呟く。実際そうなのだが。 画面には解説者が登場した。『吉村解説員、どうしてこのような事件が起こったのでしょうか』『はい。今回襲われたのは三好秀次さんが率いる隊だと推測されています。先日も日進市の岩崎地区で屋敷が襲われる事件が発生しており、警察によると最近名古屋周辺では敵対する二つのグループが喧嘩を繰り返しているということです。このグループのトップは──』『すみません、ここで臨時ニュースが入りました。愛知県長久手町は町内全域に避難命令を出しました。繰り返します、愛知県長久手町は町内全域に避難命令を出しました。──あらためてお願いします』 長久手、とは聞き覚えがある。確か「小牧・長久手の戦い」があった場所で、戦うのは豊臣秀吉と徳川家康。そんな所か。『はい、この地域で喧嘩をしているのは羽柴秀吉と徳川家康、それぞれをリーダーとするグループとみられ──』 耳を疑った。そのものズバリなのだ。 慌てて窓から外を眺めると、 「今」と「昔」が混在する世界だった。 ※このショートショートは史実を題材に構成したフィクションです。また、今後の創作に今回のアイディアを再利用する可能性があります。

宇宙とネコ。

 私がそのCDを拾ったのは、偶然だった。教師でさえあまり入らない旧校舎の、化学実験室という札が掲げられた教室。たった一枚、机に置かれていた。 そのCDにはとある音声が録音されていた。CDだから当然だって? いや、そこに入ってるのは音楽ではなく。「……世界の真実を知りたいかい?」 そういう声が、冒頭のトラックに入っていた。それは少年の声。カッコいいというよりは可愛い部類の声。私はそのまま聴く。彼はこの世界、いやこの宇宙の成り立つ仕組みを永遠と語り続けた。そして途中途中で、こう勧誘してくる。「キミもこの宇宙の維持に力を貸してくれないかな」 それはまるで、自分に訊いているかのようだった。でもある意味独善的で、恐い。そのまま私はCDを聴き続けた。 そして最後のトラック。「最後まで聞いてくれるなんて珍しいね。そんなキミの許に、ボクは行く。キミには選択する自由があるよ、契約するかしないかの。でも折角だから契約してほしいな」 そしてふと顔を上げると、何かがそこにいた。「気付いたかい?」「……あなたは?」「みんなからは『キュゥべぇ』と呼ばれてるよ」 その白い、ネコみたいな生き物は、まるでツインテールのようなものを耳から垂らしたそれは、話しかけてきた。「ボクはキミの願いを一つだけ叶えて、魔法少女にすることが出来んだ」「それが宇宙を維持するための?」 その『キュゥべぇ』とやらは質問に答えず、「だからボクと契約して、魔法少女になってほしいんだ」ただそれだけを言ってきた。嘘は言われてない、けど真実も判らない。そう感じた。まさに独善的だ。「悪いけど、興味はないかな」「そうかい? ならここでさよならだ」 彼は、去っていった。