季節外れのBMB

季節外れのBMB

『県庁駅での信号故障のため、現在名環線はダイヤが大幅に乱れています──』
(にしても電車、来ない……)
 ホームに溢れる人々、繰り返されるアナウンス。行先表示板の時刻表示はもちろん消えている。自分の行きたい方向とは反対側の電車ばかり来て、乗りたい電車はまだ来ない。
『三番線、大幸行きが参ります。白線の内側まで下がってお待ちください』
 また、反対方向の電車。この分では電車が来てもすぐには乗れないのだが。
「……はぁ」
 思いがけず、ため息をつく。もう三十分も待っている。その間、名環線外回りは一本も来ない。
 また、錦通線からの乗り換え客が下りてくる。広いとはいえないホームは、さらに混み出す。
『三番線、名環線内回りが参ります。白線の内側まで下がってお待ちください』
 何故、こんなにも片方の線路だけが使われているのだろう。まあこの路線は一周するし、電車が足りなくなったりはしないだろうけど。
『ホーム混雑のため、ここでお待ち願いまーす』
 遠くから、上の方から、駅員の声。下りのエスカレーターは停められ、人の動きは先ほどよりも小さくなった。この駅の乗り換えルートは全て同じ場所へと収束し、そして分かれる。その一ヶ所があるからこそ、止められるのだと思う。
 ぼーっと周りを見ていると、ふと、あることに気付く。
「あ、辻本くん?」
 同じ学科の男の子が、すぐ近くにいた。何となく名字だけは覚えていたが、特に話したことはない。けど、同じ大学の彼がここにいるってことだけで、何故か心が落ち着いた。
「丸山、だっけ?」
「うん」
「同じ学科の?」
「うん」
 どうやら彼の方も、こちらのことを覚えてくれていたようだ。これは何となく、嬉しい。
「電車、来ないね」
「まあ人身事故じゃないんだし、しょうがないよ」
 人身事故、つまり電車への飛び込み自殺が起これば現場検証などの関係で一時間は遅れる。自分の命を絶つという愚行を犯しながら、さらに他人を巻き込むなんて、迷惑極まりない。
「何分ぐらい待ってる?」
「十五分くらいかな。そろそろ諦めて、歩いていこうかなとは思ってる」
 なるほど、三十分も待っているくらいなら大学まで歩いていくほうが良かったかもしれない。ここから電車に乗っても、たった一駅だけだ。
「じゃあ一緒に、今から歩く?」
「ああ、そうしようか」
 一緒に、改札へと階段を上る。IC定期券を自動改札機にタッチして、明るい地下空間からどんよりと暗い屋外へ出た。
 大学へと行く道の歩道にはLED電飾の準備がされている。夜になったら電気が点いて、華やかな雰囲気をかもし出すのだろう。
「そういえば、今日の夜、ヒマ?」
「まあ、特には。バイトも今日は入ってないし」
「講義はいつまで?」
「集中講義だから、三時ぐらいまでだったはずだな」
「だったらさ、夜まで大学に残ってさ、帰りもここ、来ない? 多分きれいだよ?」
「でもさ、今日って……」
「まあ、クリスマスイブ、だね」
「クリスマスイブってのはその……、彼氏と彼女が、っていうかさ……」
「いいじゃん、別に」
「変な目で見られないか?」
「別に、普通だと思うけど?」
「……解ったよ」
 チラチラと雪が舞い始める山手通り。そして始まる、季節外れのボーイ・ミーツ・ボーイ