待つ

待つ

(これって、フラれたのかなぁ……)
 待ち合わせの時刻から一時間、カレはまだ、来ない。指定された時計塔、反対側には地味めの男の子。もちろん、カレとは違う。カレはこんなに地味じゃない。男の子もまた、同じくらいの間誰かを待っているみたいだ。
 この日のために髪を染め、お化粧もしっかりして、服も新しく準備して、カレに合うようにしてきた。学校での地味なイメージを打ち消すような、カレのカノジョにふさわしいような。カレが恥ずかしくないように、そしてカレに驚いてもらえるように。
 でも、来ないのだ。ケータイを親が持たせてくれないので、メールも出来ない。ただ、そのまま帰ってしまうのは気が引けた。もしその直後に来たらどうしよう、そしたらカレも残念に思うのではないか。そう、感じてしまう。
 さらに一時間。やっぱり来ない。反対側にいる男の子も、まだ待っているみたいだ。もうそろそろ諦めよう。そしてふと、男の子に声をかけてみようと思い立った。どうせフラれたんだから、カレも何も言うまい。
「まだ、来ないんですか?」
「はい。──あれ?」
 その声はカレに似ていて、気付いたのは同時だった。カレはずっと、ここにいたのだ。髪を黒く染め、学校での自分に合うような姿で。
「すれ違い、ってやつかな?」
「そうかもね」
 二人でクス、っと笑い、私達はそこを離れたのだった。