ニコ生が30分単位で枠移動しないといけない理由を考えてみる

(8/24追記)新配信完全移行に伴い、延長の無料化&予約枠の無料化という、なかなか思い切った仕様変更が予告されました。しかし他の配信サイトとは違い「枠」の概念自体は残ると考えられるわけで、理念自体は変わっていないのかな、とは思います。

 せっかく放送を開いたのに、「次枠でお待ちしています」と言われた経験、ニコニコ生放送を使っている方なら少なからずあることでしょう。そしてこう思うことも少なくないはずです。

「YouTubeLiveやMixerなど、他の配信サイトでは放送枠を取り直すことがないのに、なんでニコ生は30分単位で枠を取り移動する必要があるのだろうか」


 この疑問に対し、色々考えてみたことを覚え書き程度に書いておきましょう。なおこの考察は私が勝手に推測したものなので、合ってる保証などどこにもありません。私なりの理由付け、程度でお読みくださいませ。

1.技術の面(?)から考えてみる。
 結論から先に言えば、「限られたサーバリソースにおいて最大効率を達するため」と理解すれば簡単な話です。運営側にとって、誰も見ない放送を延々と垂れ流されるのは決して歓迎されるものではありません。枠の時間が無限であれば、延々と蛍の光を流す放送とかも出来るわけです(Nsenのch99は、それはそれで癒しだったけど)。
 では何故、他の配信サービスでは制限していない、もしくは制限が緩いのでしょうか。
 YouTubeやMixerの場合、その背後にはGoogleの巨大データセンターなり、巨大企業Microsoftの関与があるわけで、リソースにも余裕があると思って良いでしょう。それに全世界向けサービスです、時間帯による偏りをある程度平均化できるわけで、対投資の効率は決して悪くありません。日本国内向けサービスであるニコニコではどうしてもアクセスに偏りが出てしまうので(だからエコノミーモードなどで分散させようとはしている)、対投資の効率が悪くなってしまいます。
 では日本国内向けである「FRESH!」や「OPENREC」はどうして長時間配信が可能なのでしょうか。これは配信者を事前登録・審査制にすることで必要なリソースを把握しつつ抑制出来るからと考えられます。「プレミアム会員になれば誰でも放送出来る」ニコニコ生放送よりは、お金はかからないものの少しハードルは高くなりますよね。
 「CaveTube」の場合は配信システムが特殊です。大部分の視聴者がブロードバンド環境である前提のもと、視聴者から視聴者に映像を再送信するシステムといえばいいのでしょうか。ある意味視聴者をもリソースとして活用することでサーバ負担を抑えているわけですが、サーバ負担を抑えるため(いわく、予算的な都合で)再エンコード処理をしないこともあり、携帯端末への対応は配信者まかせのようです。
 ニコニコ生放送は「日本国内向け」(アクセスにかたよりが生じる)「プレミアム会員なら放送出来る」(配信へのハードル低め)「携帯端末からの視聴に対応」(再エンコードすることでサーバ負担は大きくなる)といった、サーバリソースの効率利用への壁がいくつか存在します。なので「30分」という枠を設けることで「枠を取り直す」という作業を生じさせ、垂れ流し放送を抑制しサーバリソースの効率利用を促すことが出来るのです。枠を区切ることで、時間帯による差もつけやすくなりますしね。なお一部のコメビュや配信ツールで「自動枠取り」が出来るじゃないか、という指摘もありそうですが、通常の枠取り操作を自動化しているだけで「公式」の機能ではありません(だから番組作成ページの仕様が変わると動作しなくなります)。公式の配信ツールであるNLEにしても、ストリームキーの入力こそ不要ですが「接続動作」としてのクリックは必要です。新配信は一度無料延長できる仕様ですが、最初から1時間枠でなく延長操作が必要なのも自動的な放送を阻止する理由からでしょう。
 これを裏付けるものとして、ツイキャスもニコニコ生放送と同じく「30分枠」が基本であることが挙げられます。「日本国内向け」「アカウントがあれば放送出来る」(むしろハードルが低い)「携帯端末からの視聴に対応」(むしろそちらの方が多そう)と、条件も類似していることが見て取れるでしょう。ツイキャスの場合は「枠移動」の操作が配信者側だけな分、ニコニコ生放送より楽と言えるのかもしれません。

2.概念の面から考えてみる。
 ニコニコ生放送の枠について考えるうえで注目すべきは、放送枠が「番組」という名称で呼ばれていることでしょう。生放送トップページを開いて最初に大きく出てくる文字は「注目の番組」ですし、放送を始める時は「新規番組の作成」です。YouTubeが「ライブストリーミング」、Mixerが「Broadcast」といったように、「番組」という名称を使っているのは案外少ないようです(FRESH!も「番組」ですね。後ほど個別に考えてみます)。そこで、「番組」の辞書的定義を確認してみましょう。

ばんぐみ【番組】
① 放送演劇勝負事などを構成する,一つ一つの出し物,およびその順番。また,それを記した表。プログラム。「報道―」「―編成会議」「能の―」
② 殿中に宿直勤務する番衆の組。日葡

(スーパー大辞林より)


ばん‐ぐみ【番組】
1 演芸•映画•相撲などの演目•組み合わせや、その順序。また、それを書いたもの。プログラム。「入り口で―をもらう」
2 テレビ•ラジオなどの放送の、編成の単位となるもの。また、その部門。「スポーツ―」
3 番衆の組。
「―勤むる人なみに、何か替はる事なし」〈浮•新可笑記•四〉

(大辞泉より)

 

 念のため2つの辞書を引いてみました(今執筆しているPCに入っているのですぐに調べられる2つともいう)。「番衆の組」という意味はここでは無視していいとして、「組み合わせて構成されたもの」という意味が含まれているのが解るでしょう。組み合わせて構成するためには、まず制約となるものが必要です。制約となるいちばん大きなものといえば、やはり「時間」でしょう。ニコニコ生放送というのは本来「時間」という制約を与え、1枠の中で「何をやるか」「どう時間を配分するか」を決めてもらう。そんな性質のものだったのかもしれません。「わこつ」の語源が「枠取りお疲れ様」であるように、昔は1枠取るのにも大変だったみたいですからね。
 そしてもう一つ、これは忘れがちですが、ニコニコ生放送の枠は「コミュニティ」が提供するものだということに注目しておかなければなりません。今でこそ「ニコニコミュニティ」は生放送に必要不可欠なものという認識でしょうが、本来は「交流の場」であり、そのために専用掲示板やコミュニティ動画といった機能があります。メンバー権限設定が出来ることからも、共同管理するものという認識は捨ててはいけないでしょう。そして交流の一手段として、生放送が提供されています。YouTubeなどと違いユーザーと生放送が直結しておらず、1つのコミュニティで複数人が放送できるのもこれが理由ですね。YouTubeのチャンネルって複数人で管理できるんですね、知りませんでした。まあ、わざわざ「枠移動」なんてことを強いられるのもここに理由がありますが。
 今では放送専用にニコニコミュニティを立ち上げることが多いです。しかしこれについても回りくどく考えてみれば、「コミュオーナー」に関して交流を行うコミュニティを自ら立ち上げ、コミュニティが「枠の提供」を行い、交流の一手段とするわけです。コミュニティに参加するということはすなわち交流メンバーの一員になることであり、人数が増えればより交流しやすくするために延長割引などが提供される、そんな風に考えてみれば放送主ではなくコミュニティに特権がつく理由も見えてくることでしょう。
 では、時間制限のゆるいFRESH!も同じく「番組」なのは何故でしょうか。これはFRESH!のゲーム実況以外のコンテンツ内容に「テレビ的な、時間を区切っての放送」が多いことが挙げられるでしょう。ニコニコ生放送には番組表がありますが、FRESH!も「放送予定」としてあらかじめ日程が組まれた放送が多いです。つまりは「インターネットテレビ」な要素が強いわけで、一時期「AbemaTV」との関連があったことも、その裏付けといえるかもしれません。
 次に、1枠が30分である理由を考えてみましょう。まあこれはテレビ放送にも近く、かつ30分単位で組むことで一日を上手く割り切れることが挙げられると思います。リスナーにとっても長すぎず、放送側にとっても短すぎないのが30分という単位です。では何故新配信で実質1時間放送がポイントやチケットなしで可能なのは──新配信の普及のためという面が一番大きいでしょうし、もしかしたら1時間放送単位の方が有利というデータを持ち合わせているのかもしれません。

 ということで技術面と概念面、2つの面からニコ生の枠が1枠30分であること、どうして枠移動をしなくてはいけないか考えてみました。「これも理由じゃないか!」と思うことなどあれば、コメント欄にて。