複雑な関係

(……あの子、可愛い♪)

 私がその子を見つけたのは、講義開始のブザーが鳴る少し前のことだった。髪を長く伸ばし、ワンピースが似合う子。髪は決して染めておらず、自然なストレートの感じはまさに「大和撫子」というべきか。授業内容の復習をしているらしく、ただノートをじっーと読んでいる。そのノートを後ろからそっと覗いてみると、字も結構可愛い。

 授業が終わったら声を掛けてみよう。でも私の趣味を知ったら引かれるかなぁ。講義が始まってからもずっとそればかり考えていて、内容は全然頭に入ってこなかった。次回までに今日のノートを誰かに見せてもらわないと。

 講義自体は規定の時間の少し前に終わった。早々と荷物をまとめ席を立ち上がったその子に、私は声をかける。

「ねぇ、ちょっといい?」「は、はいっ」

 女の子にしては少し声が低めな感じがするけど、逆にそれに惹かれる。

「お昼ご飯、一緒に食べない?」「え、でもボク、お弁当……」

 ボクっ娘属性とは、私の好みのストライク、しかも皆中だ。これを逃してしまう手はない。

「私もだから、一緒にどう?」

 私は一応、毎日お弁当持ち。女の子なんだから、料理くらいはできる。まあ向こうが学食なら、学食に行ったけど。もったいない? いや、出逢いを逃す方がもったいないから!

「グリーンエリア辺りでどう?」

 芝生が広がる空間。それを囲うようにベンチが設置されている。イベントを開催していなければ、人目も少ない。

「はい、大丈夫ですが……」

 なら決まり、と私達はグリーンエリアへ移動した。

 お弁当を食べている間はお互い無言。話したかったけど、この子と一緒にお弁当が食べれるだけで満足してしまって、言葉が出てこなかったのだ。向こうもあまり喋らないような感じだから、どうしようもない。私的に言えば、寡黙少女はまたまた好みなんだけど。

「ねぇ、ちょっと聞いてもらっていい?」

 これ以上一緒にいたら、私はこの子なしではいられなくなる。だから、早々と言ってしまおうと思う。

「私ね、あなたが好きなの」

「……へ?」

「私ね、女の子を好きになっちゃうんだ。いわゆる『百合』ってのだけど」

「は、はい」

「君は私のど真ん中なのよ?」

 そして私はその子に抱きつく。横から、ぎゅっ、と。

「えっと、その……」「ダメ?」

 OKしてくれた人なんて今までいない。一人も、いない。何回か告白してるけど、付き合ってくれる人は誰もいない。

「いや、そういう意味ではなくて……ボク、男ですよ?」

「……にゃ?」

 それは予想外だった。だって女の子用の洋服をしっかりと着こなして、姿形は普通に女の子にしか見えない。

「……確認していい?」

「どうやって?」「それはもちろん、付いて──」

「そんなこと、していい訳ないじゃないですか!」

 確かに、こんな野外でそんなことは女の子同士でもやらない。

「……学生証は?」「ありますけど……」

 確認のため見せてもらうと、確かに性別の欄は「男」になっていた。てか名前も音だけ聞いたら女の子っぽい名前だし。

「てことは私は、女の子だと思って男の子に惚れたの?」

「まあボクも、男の子に告白されたことは結構ありましたけど、女の子は初めてです……」

 どこかで聞いた言葉が頭をよぎる。「こんなに可愛い娘が女の子のはずがない」、確かにその通りだった。

「でもどうして、そんな格好を?」

「えっと、高校一年からよく『女っぽい』って言われてて、その年の文化祭で劇をやったんです。その時当然のように女装させられて、それが似合い過ぎてて。担任からも『これから女子の制服を着て過ごせ』と言われるくらい。それから先はずっと女子の制服を着ていて、大学もその流れで……」

 担任に強制されるくらいなら、よほど似合っていたに違いない。

「私が付き合えば、そっちは女の子と付き合えるし私は可愛い男の娘を愛でることができる。お得だと思わない?」

「ま、まあそれなら……」

 よし、交換条件成立。でもこうなると私、「百合」って言えるのかな? まあこの子がいれば、結婚相手にも困らない。え、早すぎ? でもそんな時期までの期間は、意外に短いのだ。

終わり?