この空は昔にも続いている。

 午前七時。いつも通り、NHKをつける。
『午前七時のおはよう日本です。──今朝早く、愛知県尾張旭市の通称「白山林」にて野宿をしていた男性達が何者かに襲われるという事件がありました。現場上空から中継でお送りします』
 珍しい事件だな、とその時は思っていた。それが初めて接した異変だったということを、後に知ることになる。
 テレビの画面は住宅地の一部に森林が残るだけという、野宿するには違和感のある地域を映し出す。しかし、「変わった趣味だな」と思っただけだった。ザバゲーなんてのがある訳だし。
『現場上空です。被害者が野宿していたのは画面に見える林の中であり、警察の調べでは、襲撃者は画面の上方にある川の方面からやってきたとのことです。襲撃者は住宅地方面に逃げた人々を容赦なく日本刀で斬りつけ、画面の下、南の方向に逃走したといいます。現場には多数のパトカーが停まっており、現在現場検証が行われています。また、臨時の救護所が近くの小学校に設けられ、生存者の治療が行われています──』
「物騒な事件ねぇ~」
 隣で観ていた母親が他人事のように呟く。実際そうなのだが。
 画面には解説者が登場した。
『吉村解説員、どうしてこのような事件が起こったのでしょうか』
『はい。今回襲われたのは三好秀次さんが率いる隊だと推測されています。先日も日進市の岩崎地区で屋敷が襲われる事件が発生しており、警察によると最近名古屋周辺では敵対する二つのグループが喧嘩を繰り返しているということです。このグループのトップは──』
『すみません、ここで臨時ニュースが入りました。愛知県長久手町は町内全域に避難命令を出しました。繰り返します、愛知県長久手町は町内全域に避難命令を出しました。──あらためてお願いします』
 長久手、とは聞き覚えがある。確か「小牧・長久手の戦い」があった場所で、戦うのは豊臣秀吉と徳川家康。そんな所か。
『はい、この地域で喧嘩をしているのは羽柴秀吉と徳川家康、それぞれをリーダーとするグループとみられ──』
 耳を疑った。そのものズバリなのだ。
 慌てて窓から外を眺めると、

「今」と「昔」が混在する世界だった。

※このショートショートは史実を題材に構成したフィクションです。また、今後の創作に今回のアイディアを再利用する可能性があります。