ティータイム

 私の手元のティーカップの中身が無くなって、彼のアイスコーヒーが無くなって、しかし彼が話し始めるようなことはなかった。いい加減にして欲しいな、呼び出したのはそちらなのにとか思いつつ、三十分ほどお互い無言の時間が過ぎて、私の我慢は限界に達する。
「で、あなたは私とどのような関係でいたいの?」
「それは、その、まあ……」
 まっすぐ投げかけたが、彼ははっきりと答えない。
「私と付き合っている状態、カレシカノジョの関係でいたいの? 別れたいの?」
「それは、許してくれるかどうかで……」
「許す許さない以前に、謝りもしないわけ?」
 彼は何を考えているのだろう。まず謝罪が先でしょう、そんなことも判らないわけ? そう言いたい気分だった。
「えっと、すみません、でした」
「言われてから謝られるほど気分の悪いものはないんだけど」
「それも、ごめんなさい」
 まあ、そこは大目にみるしかないのかな。謝らない人はとことん謝らないだろうし。
「で、許すか許さないかだっけ? 結論から言えば、今は何も言わない」
 彼は意外そうな顔で私を見る。
「今許す許さないを言っても、意味ないんじゃない? 逆に、何で今決められるのって話」
 今後どういう行動を取るかで、私の彼に対する見方は変わる。その猶予を与えている時点で私は彼を許しているといえるし、執行猶予的に考えれば、許していないともいえる。だからどちらともいえない。
「それで、あなたはどうしたいの?」
 彼は俯き、色々と思案を巡らせる様子を見せてから、言う。
「×××××さんと、引き続き付き合っていきたいとは思ってる」
「解った、そのかわり、今後このようなことはしない、それは当たり前ね」
 何か、それだけでは物足りなくて。
「あと、このようなティータイムを、二週間に一回は取ること。それが条件」
 彼と面と向かって話せる場が、大学に入ってから少なくなってしまっていた。お互いの足を引っ張りかねないから「同じ大学を目指す」ということはしない、そう決めたことが原因の一つではあるのだけど。デートをする時以外はほとんどがネットでSNSを使ったやり取りが中心で。彼自身を見れてない不安は私にもあった。
「そのかわり、しばらくの間はおごりで、よろしくね」
「……分かった。それで許してもらえるなら」
「許すとは言ってないわよ?」
 彼は笑い、私も微笑んだ。そうね、もう私は彼を許しているのかもしれない。彼には決して、言わないけど。

***

 とある場所にある展望台に、私は「彼女」を呼び出した。呼び出しても来ないかもしれない、そう思っていたが、彼女は姿を見せる。
「来てくれて、ありがとう」
「まあ、暇だったし」
 素っ気なく、彼女は言う。彼女っぽいと感じてしまうのは、これからの付き合いの長さからだろうか。
「×××××くんに今後、近づかないでほしい。あなたはそう言いたいんでしょう?」
 状況的に、解って当然か。
「結論から言えば、嫌だわ。あたしはあたしの自由にする。誰にも縛られない」
「そうね、強制する道理はない。あくまでもお願いとして、聞いてくれるかしら」
「それでも、嫌」
 あくまでも彼女は、私の思い通りにはなりたくないらしい。
「機会があれば、あたしは×××××くんに近付くわ。何度だって、ね。一つは、あなたへの恨みから。一つは、あたし自身が彼に惚れたから」
「私への、恨み?」
 私には覚えがない。彼女に危害を加えたことなんて、なかったはずだ。
「何で、あなたは私を恨むの?」
「あなたが、最後に残っていた友達だったから」
 何となく切れてしまったつながり。彼女にとってはもっとも重要なつながりだったのかもしれない。
「けれどももう、あなたとは繋がれないわ。あんなことがあったもの」
「知ってる、だから一方的に、あたしはあなたの邪魔をするの」
 明らかな挑戦状だと、私は感じた。──面白い。
「そうね、彼があなたの手に渡るのは、私が彼に飽きたときよ?」
「まさか、それまでに落とすわよ? どんな手段を使ってもね」
 彼女は去っていく。──絶対に手離してやるものか。