ハンドルネームでもネット上で選挙運動するには問題ない話(条件付き)。

Twitter上にて、「ハンドルネームで選挙活動すると公職選挙法235条の5の違反!なので各種機関に通報しましょう!」という話が出回りました。別に自分は選挙活動するつもりはないので関係ないっちゃないですが、調べてみると真実性は薄いです。

niconicoも選挙活動の場として使われることを想定し、ニコニコミュニティについては「インターネットを使った選挙活動について」というお知らせが現在(2017/10/10)貼られています。そこに総務省のページへのリンクもあり、この総務省のページに掲載された情報を紐解くと次のようなことがわかります。

  • 「ウェブサイト等を利用する方法」により誰でも選挙活動ができる。(第142条の3第1項)
  • ただし、「電子メールアドレス等」を表示する義務がある。(第142条の3第3項・第142条の5第1項)
  • 「電子メール」を利用した選挙活動は、候補者・政党のみが行える。(第142条の4第1項)
  • 「電子メール」を利用した選挙活動には、氏名・名称や「電子メールアドレス等」を表示する義務がある。(第142条の4第6項・第142条の5第2項)

総務省のページにも解説がありますが、せっかくなので公職選挙法の各条文について、定義を確認しながら紐解いていきましょう。

まずは、この部分の条文を引用します。

(ウェブサイト等を利用する方法による文書図画の頒布)
第百四十二条の三 第百四十二条第一項及び第四項の規定にかかわらず、選挙運動のために使用する文書図画は、ウェブサイト等を利用する方法(インターネット等を利用する方法(電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号に規定する電気通信をいう。以下同じ。)の送信(公衆によつて直接受信されることを目的とする電気通信の送信を除く。)により、文書図画をその受信をする者が使用する通信端末機器(入出力装置を含む。以下同じ。)の映像面に表示させる方法をいう。以下同じ。)のうち電子メール(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(平成十四年法律第二十六号)第二条第一号に規定する電子メールをいう。以下同じ。)を利用する方法を除いたものをいう。以下同じ。)により、頒布することができる。
2 選挙運動のために使用する文書図画であつてウェブサイト等を利用する方法により選挙の期日の前日までに頒布されたものは、第百二十九条の規定にかかわらず、選挙の当日においても、その受信をする者が使用する通信端末機器の映像面に表示させることができる状態に置いたままにすることができる。
3 ウェブサイト等を利用する方法により選挙運動のために使用する文書図画を頒布する者は、その者の電子メールアドレス(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第三号に規定する電子メールアドレスをいう。以下同じ。)その他のインターネット等を利用する方法によりその者に連絡をする際に必要となる情報(以下「電子メールアドレス等」という。)が、当該文書図画に係る電気通信の受信をする者が使用する通信端末機器の映像面に正しく表示されるようにしなければならない。
(電子メールを利用する方法による文書図画の頒布)
第百四十二条の四 第百四十二条第一項及び第四項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる選挙においては、それぞれ当該各号に定めるものは、電子メールを利用する方法により、選挙運動のために使用する文書図画を頒布することができる。
一 衆議院(小選挙区選出)議員の選挙 公職の候補者及び候補者届出政党
二 衆議院(比例代表選出)議員の選挙 衆議院名簿届出政党等
三 参議院(比例代表選出)議員の選挙 参議院名簿届出政党等及び公職の候補者たる参議院名簿登載者
四 参議院(選挙区選出)議員の選挙 公職の候補者及び第二百一条の六第三項(第二百一条の七第二項において準用する場合を含む。)の確認書の交付を受けた政党その他の政治団体(第八十六条の四第三項(同条第五項においてその例によることとされる場合を含む。)の規定により当該公職の候補者が所属するものとして記載されたものに限る。)
五 都道府県又は指定都市の議会の議員の選挙 公職の候補者及び第二百一条の八第二項(同条第三項において準用する場合を含む。)において準用する第二百一条の六第三項の確認書の交付を受けた政党その他の政治団体
六 都道府県知事又は市長の選挙 公職の候補者及び第二百一条の九第三項の確認書の交付を受けた政党その他の政治団体
七 前各号に掲げる選挙以外の選挙 公職の候補者
2 前項の規定により選挙運動のために使用する文書図画を頒布するために用いられる電子メール(以下「選挙運動用電子メール」という。)の送信をする者(その送信をしようとする者を含むものとする。以下「選挙運動用電子メール送信者」という。)は、次の各号に掲げる者に対し、かつ、当該各号に定める電子メールアドレスに送信をする選挙運動用電子メールでなければ、送信をすることができない。
一 あらかじめ、選挙運動用電子メールの送信をするように求める旨又は送信をすることに同意する旨を選挙運動用電子メール送信者に対し通知した者(その電子メールアドレスを当該選挙運動用電子メール送信者に対し自ら通知した者に限る。) 当該選挙運動用電子メール送信者に対し自ら通知した電子メールアドレス
二 前号に掲げる者のほか、選挙運動用電子メール送信者の政治活動のために用いられる電子メール(以下「政治活動用電子メール」という。)を継続的に受信している者(その電子メールアドレスを当該選挙運動用電子メール送信者に対し自ら通知した者に限り、かつ、その通知をした後、その自ら通知した全ての電子メールアドレスを明らかにしてこれらに当該政治活動用電子メールの送信をしないように求める旨を当該選挙運動用電子メール送信者に対し通知した者を除く。)であつて、あらかじめ、当該選挙運動用電子メール送信者から選挙運動用電子メールの送信をする旨の通知を受けたもののうち、当該通知に対しその受信している政治活動用電子メールに係る自ら通知した全ての電子メールアドレスを明らかにしてこれらに当該選挙運動用電子メールの送信をしないように求める旨の通知をしなかつたもの 当該選挙運動用電子メールの送信をする旨の通知に対し、当該選挙運動用電子メールの送信をしないように求める旨の通知をした電子メールアドレス以外の当該政治活動用電子メールに係る自ら通知した電子メールアドレス
3 衆議院(比例代表選出)議員の選挙において、公職の候補者たる衆議院名簿登載者(当該選挙と同時に行われる衆議院小選挙区選出議員の選挙における候補者である者を除く。)が、電子メールを利用する方法により選挙運動のために行う文書図画の頒布は、第一項の規定により当該衆議院名簿登載者に係る衆議院名簿届出政党等が行う文書図画の頒布とみなす。この場合における前項の規定の適用については、同項中「送信をする者(その送信をしようとする者」とあるのは、「送信をする衆議院名簿登載者(その送信をしようとする衆議院名簿登載者」とする。
4 選挙運動用電子メール送信者は、次の各号に掲げる場合に応じ、それぞれ当該各号に定める事実を証する記録を保存しなければならない。
一 第二項第一号に掲げる者に対し選挙運動用電子メールの送信をする場合 同号に掲げる者がその電子メールアドレスを当該選挙運動用電子メール送信者に対し自ら通知したこと及びその者から選挙運動用電子メールの送信をするように求めがあつたこと又は送信をすることに同意があつたこと。
二 第二項第二号に掲げる者に対し選挙運動用電子メールの送信をする場合 同号に掲げる者がその電子メールアドレスを当該選挙運動用電子メール送信者に対し自ら通知したこと、当該選挙運動用電子メール送信者が当該電子メールアドレスに継続的に政治活動用電子メールの送信をしていること及び当該選挙運動用電子メール送信者が同号に掲げる者に対し選挙運動用電子メールの送信をする旨の通知をしたこと。
5 選挙運動用電子メール送信者は、第二項各号に掲げる者から、選挙運動用電子メールの送信をしないように求める電子メールアドレスを明らかにして電子メールの送信その他の方法により当該電子メールアドレスに選挙運動用電子メールの送信をしないように求める旨の通知を受けたときは、当該電子メールアドレスに選挙運動用電子メールの送信をしてはならない。
6 選挙運動用電子メール送信者は、選挙運動用電子メールの送信に当たつては、当該選挙運動用電子メールを利用する方法により頒布される文書図画に次に掲げる事項を正しく表示しなければならない。
一 選挙運動用電子メールである旨
二 当該選挙運動用電子メール送信者の氏名又は名称
三 当該選挙運動用電子メール送信者に対し、前項の通知を行うことができる旨
四 電子メールの送信その他のインターネット等を利用する方法により前項の通知を行う際に必要となる電子メールアドレスその他の通知先
(インターネット等を利用する方法により当選を得させないための活動に使用する文書図画を頒布する者の表示義務)
第百四十二条の五 選挙の期日の公示又は告示の日からその選挙の当日までの間に、ウェブサイト等を利用する方法により当選を得させないための活動に使用する文書図画を頒布する者は、その者の電子メールアドレス等が、当該文書図画に係る電気通信の受信をする者が使用する通信端末機器の映像面に正しく表示されるようにしなければならない。
2 選挙の期日の公示又は告示の日からその選挙の当日までの間に、電子メールを利用する方法により当選を得させないための活動に使用する文書図画を頒布する者は、当該文書図画にその者の電子メールアドレス及び氏名又は名称を正しく表示しなければならない。


各種用語の定義付けはされているものの、入れ子式になっているので順を追ってみていきましょう。

「インターネットを利用する方法」は「電気通信」によって送信され、画面に文書図画として映るものと定義されています。「電気通信」は電気通信事業法で定義されており、それによれば「有線や無線などの電磁的方式で、符号や音、映像を送るもの」とされています。ただしこの条件だとテレビやラジオ放送が含まれるため「公衆が直接受信することを目的にしたものは除く」として除外しています。法律はその適用範囲を定義しておく必要があるので細かくなっていますが、普通にイメージする「インターネット」と考えてよいでしょう。

「電子メール」は別の法律で定義されているのでこれを見に行ってみると、

特定の者に対し通信文その他の情報をその使用する通信端末機器(入出力装置を含む)の映像面に表示されるようにすることにより伝達するための電気通信であって、総務省令で定める通信方式を用いるものをいう。

とあり、ここで触れる総務省令は「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号の通信方式を定める省令」がそれに当たります。この省令で定められている通信方式がSMTPとSMS(ショートメッセージサービス)なので、「電子メール」もこの2方式を使って送信する方法となります。

ここまで来てやっと、「ウェブサイト等を利用する方法」を紐解くことができます。定義によれば「インターネットを利用する方法」かつ「電子メール」を使わない方法ということです。つまりwebページをはじめ、SNSや動画共有サイト、Skype、LINEにいたるまで、「電子メール」以外でインターネットを使ったあらゆる手段がはこれに当てはまるということです。

また、「電子メールアドレス等」についても見ていきます。法律を読むにあたっては「等」が「それに類推するものも含む」という目印になるため、注意してみていく必要があるでしょう。引用した条文では次のように定義されていますね。

その者の電子メールアドレスその他のインターネット等を利用する方法によりその者に連絡をする際に必要となる情報

「電子メールアドレス」は電子メール利用者を識別するための文字列と定義されているので置いておきます。「インターネット等を利用する方法」についてはすでに触れましたね。すると、「インターネット上で連絡が取れる情報を載せておけばいい」ということになります。つまり連絡手段として使えればいいわけで、「Twitterやniconicoなどのアカウント」「メールフォームへのリンク」でも「連絡が取れる」という条件を満たしています。つまり、これらの情報を「電子メールアドレス等」と解釈して、これを載せることで「ウェブサイト等を利用する方法」の条件を満たすことができるのです。

ポイントは、「氏名・名称の表示」を義務化していないことです。これは電子メールでわざわざ明示されていることと対照すれば、意図的なものであることと読めるでしょう。

ここで、235条の5についても見てみましょう。

(氏名等の虚偽表示罪)
第二百三十五条の五 当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて真実に反する氏名、名称又は身分の表示をして郵便等、電報、電話又はインターネット等を利用する方法により通信をした者は、二年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。


確かに、インターネットによる選挙活動もこの罰則の対象です。しかしこの罰則は「真実に反する氏名、名称又は身分の表示」、つまり「なりすまし」を禁止するものです。ウェブサイト等を使った方法で氏名・名称を表示することは「義務ではない」ため、ハンドルネームはそもそも「氏名、名称の表示」に当たらないのです。
もちろん、候補者名や政党名、有名人を名乗ったアカウントは罰則の対象になるでしょう。ただそれ以外の「関係ないハンドルネーム」が罰則の対象になるとは、公職選挙法全体を見る限り思えません。長くなりましたが、実名を提示せず、ハンドルネームでインターネット上の選挙運動を行うことは公職選挙法を解釈する限り違法とは思えません。連絡先の情報さえあれば、ハンドルネームで選挙活動することは出来るのです。ただし公示前の事前運動や投票日当日の運動などは違反に当たるので気を付けてくださいね(選挙期間中の投稿は投票日当日に残っていても問題ありません)。