ウワサ

7「おしまい」

「結局、何も解らないままかー」
「いいじゃない、変に疑われるよりは」
 数カ月後、三年八組教室。あの日の出来事は「有名高校校長・突然の自殺」として新聞やワイドショー等の報道で大きく取り上げられ、彼女達二人や天文部長の田沼も警察の事情聴取を受けたが、不審な点がないと判断されそのまま何もなかった。学校の周りには報道陣が一時期集まっており、生徒に対してインタビューを行っていたことも合ったが、それも時間が経つにつれ消えていき今では陰も形もない。
「でもさ、何であんな展開になったんだろう……」
 恵美はいつも疑問に感じる。何故、そうなったかを。
「それは結局、彼自身にしか解らないことだから」
 愛紀はいつもあきらめを感じている。何故そうなったかは誰にも解らないと。
「でもさ、それで雫ちゃんは満足すると思ったのかな?」
「さあ? まあ自分で自分を殺めるってのは、結局自己満足の面があるからね」
「あいちゃんって厳しい……」
「だったら本人に聞けば? 聞けるんだし」
 あの後も雫は時折、彼女達の許に姿を見せる。あの日と同じ、空から天の雫が落ちてくるそんな日に、「しずく」という三音を口に出して言えば。ただその顔は以前と比べて少し暗くなったように感じられていた。
「でさ、部長さんとはどうなったの?」
「まだ保留、かな」
 愛紀と天文部部長・田沼はまだ「友達」という枠に収まったままで、愛紀はまだ返事らしい返事を返していない。今まで安定していた関係を、自分の手で動かさなければならないというのが恐いのだ。
「何で?」
「だって受験とかあるし……」
 言い訳だとは、本人も解っている。解っていながら、言葉を濁す。
「受験勉強とか一緒にやればいいじゃない? それに一緒の大学に行けるように調整とかすれば」
「向こうは文系、こっちは理系。結構厳しいんだよね」
 天文部と言えば理科系の部活といったイメージがあるが、田沼はむしろ文系科目の方が得意。だから文系コースにはいっている。一方愛紀や恵美は理系科目の方が理解しやすく、女子率は少ないながらそちらの方に進んでいた。
「両方あるところを目指せばいいだけだよ? 国立とか」
「でも偏差値高いし……」
「私立でもN大とかは両方ある訳だし」
「でもキャンパスが別なんだよね。しかもかなり離れてるし」
「じゃあ最悪、文転しちゃえば?」
 ふと、愛紀は気付く。
「……何で付き合う前提で話をしてるの?」
「いや、まんざらでもないみたいだったから♪」
 愛紀はふう、とため息をつく。
「……まあ、悪くはないんだよね。でも今まで何も考えてなかったから、戸惑ってるってのが本音」
「後悔先に立たず、だよ?」
「解ってる、年内にはちゃんと結論出す」
「約束だよ?」
 そう言い、恵美は右手の小指を差し出す。愛紀は自分のそれを絡めようと出しかけるが、気付いて引っ込めた。
「……しーちゃんと約束してどうするの?」
「ちゃんと結論を出すっていう約束だけど?」
「……うん、わかった。じゃあそういうことで、色々自分の気持ちとかを整理してみるね」
「そんなまどろっこしいことしないで、素直に付き合っちゃえばいいのに」
「無茶言わないでね?」
 放課後の教室。空は、だんだんと曇り出してきていた。

終わり