机上詩同好会(ショートショート版)

〈第0幕〉

 ある日の夕方。×××××室の中に独り、少女がいた。少女は机に座り、あてもなく窓から外を眺める。そして独り言を呟く。
「最近、何か私おかしいな……」
 今まではそうでもなかったのに、最近はすごくだるくていつの間にか眠ってしまう。夜もちゃんと寝ているのだから寝不足ではない。原因は、少女にもよく分からない。
「それに、親も何か隠してるし、あの夢か……」
 少女が見た夢、それは自分が眠るように死んでいく夢だった。いつも通りに寝て、朝になっても自分は起きない。親が声をかけても、いっこうに起きない。そして親が揺り起こそうとして肩に手をかけるとすでに冷たくなっていた、というそんな風景を客観的に見ている夢。少女にはそれがリアルすぎて。
「私、そろそろ寿命、なのかな……」
 考えたくもなかったが、何度思い返してもその結論に達してしまう。それが悲しくて、少女は涙をこぼす。そんな現実、受け入れたくない。その気持ちは当然あった。そして俯くと、目の前の机に書いてある一つの詩が目に入った。

我慢して やりたくないことをやることはあるけど
それでやりたいことを 制限される必要なんてない
むしろやりたくないことをやった分だけ
やりたいことを やればいい

「そっか……」
 もし「死ぬという現実を受け入れる」という事が「やりたくないこと」ならば、その分だけ「やりたいこと」をやればいいんだ。少女はそう感じた。私の「やりたいこと」、それは
「×××××くんのそばにいる、こと……」
 くしくも、これはいつも彼が座っている席の机。もしかしたらこれを書いたのは彼かもしれない。なら。
「この教室の机に落書きされた、たくさんの詩を集めてみたい。もちろん×××××くんと一緒に」
 きっと付き合ってくれるだろう。そう思いながら少女は微笑み、そして宣言する。
「私は部活を作る。名前は『机上詩同好会』。机の上に書かれた詩を集め、評価し、そして新しい詩を書くこと、それが活動内容。そして設立は、明日」
 明日の授業でこの教室を使う。だからその授業の後に私は×××××くんに声をかける。少女はそう心に決めた。