机上詩同好会

断章a・決意

 夕方、少女は特別教室棟三階の視聴覚教室の机の上で独り、俯いていた。下校時刻十分前のメロディーが流れ出すと顔を上げ
「もう、こんな時間か……」
と呟く。時計は午後四時五十分を指しており、本来少女は部活をやっている頃なのではあるが、つまりサボっていた。少女は一旦机から降り、放送スピーカーの音量を消音の位置まで捻ると再び元の場所へ。
「最近、何か私おかしいな……」
 凄くだるくて、いつの間にか眠っている。ちゃんと夜も寝ているし、今まではそんなこともなかった。どうして。少女は考える。
「それに親も何か隠しているし、あの夢か……」
 いつも通り寝るが、朝になって親が呼んでも自分は起きない。親が肩を触ると冷たくなっているという、衝撃的な夢。それを少女は毎晩毎晩見ているのだから、暗示のような気がしてならなかったのだ。
「私、そろそろ寿命なのかな……」
 もちろん、考えたくもない結論だったが少女の思考はいつもそこに達してしまう。そんな自分に絶望し、少女は涙を流した。そんな現実、受け入れなくないと願い俯く。
 その時、少女の目にひとつの詩が映った。手前の机に落書きされた短い、一編の詩。

我慢して やりたくないことをやることはあるけど
それでやりたいことを 制限される必要なんてない
むしろやりたくないことをやった分だけ
やりたいことをやればいい

「そっか……」
 詩を読んで、少女は思う。もし「死ぬという現実を受け入れる」ということが「やりたくないこと」ならば、その分だけ「やりたいこと」をやればいいんだ、と。
「私のやりたいこと、それは……『藤田くんのそばにいること』、かな……」
 少し話しただけなのに、少年の存在は少女にとって大きなものとなっていた。さらに、少女はこの机が少年の座る席だと気づく。なら、この詩も少年が書いたものかもしれないと深読みし、そして
「この教室の机に落書きされた、たくさんの詩を集めてみたい。うん、私は部活を作る。名前は、『机上詩同好会』。机の上にかかれた詩を集め、評価し、そして新しい詩を書くこと、それが活動内容」
そう独り宣言した。しかも、明日この教室で授業がある。少女はそれを悟り
「設立は明日。その時に、藤田くんに声を掛ける」
と決める。そしてあることを思いつき、先程の詩の隣に少女は新たな詩を、書く。

別れっていうのは つらいよね
人間はいつか 別れなきゃいけないけど
別れたくない そう思う
新しい出逢いの始まりだっていうけれど
そんなの、 言い訳

けど期待してもいいかな
その“新しい出逢い”に