これはまるで、SFの世界に迷い込んだかのようですね。

 その頃、福岡市某所。三人の少女が道を歩いている。皆同じセーラー服。同じ高校の、仲良し三人組だ。
「カナちゃん、今日は何する?」
 一人は、道をふらふらと危なっかそうに歩く。
「ごめん、今日は忙しいの」
 一人は、ノートパソコンの画面を見ながら歩く。
「忙しい?」
「世界中があんなことになってるから、利益を出すのも一刻を争うわ」
「え、何やってるの?」
「簡単に言えば株取引?」
 株を始めとした証券取引やFXで、佳奈は学生でありながらノートパソコン一台で、一日で何十万もの利益を上げていた。それはこの、世界中を襲ったパニックの中であっても。知る人は彼女を「最強のノーパソ使い」と呼ぶ。対して、藍はとにかくバカである。福岡一、とも言われるほどの。
「ねぇねぇ、ユカリもおかしいと思わない? 青春真っ盛りには遊ばなきゃ!」
 そういう藍も、この非常事態で遊ぶことしか考えていないのだから大概である。
「……うふふ、もうすぐよ」
 一人は、意味有りげなことを呟きながら歩く。
「もうすぐ?」
「そう、もうすぐ」
 ゆかりは、その意味不明な言動から学校内で「存在が宇宙人」と噂される。本人もむしろそれを狙っているような雰囲気だが。
 その時、三人のケータイが同時に鳴り始める。同じ、独特の着信音。エリアメールの着信である。
「ふむふむ、こくみん、なんとかほうで福岡市がなんとかになんとかなった?」
「国民保護法による避難命令ね。ついに日本も対象か。どう売り抜けるかが勝負ね」
 遠くでは、そのことを知らせるサイレンが鳴り始めている。
「つまり、どういうこと?」
「要するに、日本がピンチだってことだけど」
「ピンチ、なら戦わなきゃ!」
 藍は突然、走り出した。
「ちょっと、アイ!?」
 佳奈も慌てて、藍を追う。もちろん、取引の指示は出しながら。
「……計画通り」
 相変わらず、ゆかりはよく解らない。
 藍の思考的には「高い所が有利!」ということで、彼女は福岡タワーへと向かっていた。海岸に近く、例の飛翔体の姿は地上からでも水平線近くに見える。
「まったく、何考えてるんだか」
 佳奈もノートパソコンを操作しながらも、引き続き藍に付いていく。とても人間業とは思えない。
 福岡タワーは避難区域の設定に伴い、警備員達も撤収しようとしていた。鍵を全て閉め、車で退避しようとしたときに藍達が来たので、押し問答のような形となる。
「世界のピンチなんです!」
「ここは危険だ、君も早く避難しなさい!」
「でも世界が!」
 そこにすっと、ゆかりが現れる。ゆかりが扉に手をかけると錠が外れる音がし、いとも簡単に開く。
「サンキュ、ユカリちゃん!」
 藍はそれを確認すると警備員達を振り切り、中へ。
「まったく、もう!」
 呆れつつ、それでも佳奈は付いていく。
 福岡タワーの展望台は高さ一二三メートルの位置に存在する。藍はその展望台までの非常階段を、いとも簡単にのぼり切った。
「まったく、バカ力とはよく言うわね……」
 息が上がっている佳奈も、走りながら取引の指示を出している辺り並大抵の人間ではない。
 展望台からは飛翔体の姿がはっきりと見える。飛翔体は博多湾へと侵入しており、間もなく福岡上陸、といった所か。
 藍はポケットからナタデココグミを取り出し、口に入れる。そして大きく息を吸い込み、

「ナタデココ、ビーーーム!」

 大声で叫びつつ、ソフトボールのピッチングのようなフォームで左手を前に突き出した。するとその手のひらからは閃光が生まれ、ガラスを突き破り、飛翔体群へと向かう。二、三体へとそれは命中し、落下中も数機を巻き込みながら博多湾へと墜落する。
「やった、出来た!」
「危ない!」
 攻撃を感知した別個体が即座に反撃。再び閃光が走るが、また飛翔体群の一部が落下し始める。
「ありがと、カナちゃん」
「私もここが滅びちゃ困るからね。経済的に生き残ってるのが日本だけだっていうのに」
 佳奈が持っていたノートパソコンで、飛翔体の攻撃を跳ね返したのだ。
「そういえばユカリは、何でカメラを持ってるの?」
 ゆかりの手には、小型のカメラ。
「うふふ、インターネット配信」
 やはりゆかりは謎である。

***

 テレビ全四波で流れるNHKの緊急ニュースでは、福岡放送局のロボットカメラからの中継映像が断続的に流されていた。その画面でもはっきり、閃光が映る。
「今、画面に閃光が走ったように見えました。そして、飛翔体の一部が消え去ったように感じられますが」
 東京・渋谷の放送センターのニュースアナウンサーが画面に起こった出来事を口頭で伝えつつ、スタジオに呼んでいる軍事ジャーナリストに聞く。聞かれた当人は少し考えた後、
「地上側から打ち出されたように見えますねぇ。自衛隊にこんな兵器、ありましたっけねぇ?」
 その口調は、呑気であり、アナウンサーにもコメント出来そうなことしか言っていない。
「なるほど、地上からの攻撃なのですね」
 アナウンサーがそこからポイントを取り出して聞く。
「自衛隊はご存知の通り先制不攻撃という暗黙の了解がありますから、自衛隊の攻撃ではないかもしれませんねぇ。でも、こんな事態だから臨機応変に考えるかもしれませんねぇ」
 この解説者、使えない。アナウンサーはそう感じてはいたものの、情報を引き出そうとしていった。
 一方インターネットではとある中継映像が大きな話題となっていた。大手動画投稿サイト内のコミュニティ「ゆかりの地球侵略計画☆」の生放送である。その名の通りゆかりが行っているインターネット中継で、ナタデココビームやノートパソコンで攻撃を跳ね返すような映像が配信されたからである。画面を流れるコメントは『!?』が大多数。しかしその中で、あるユーザーが書き込む。
『説明しよう! あのノートパソコンは』『日本の変t、いや一大電機メーカーとりんごの会社がコラボした』『その名もマ○クブック・タフ!』『秘密裏に開発され、日本には一台しか入っていないと噂の』『最強のノートパソコンなのである!』
 そのコメントに対する反応は、『ビームの解説はよ』が多数だった。