これはまるで、SFの世界に迷い込んだかのようですね。

 あの襲来から数ヶ月後。あの三人は、損傷を受けた福岡タワーの前に立っていた。直後こそマスコミの集中取材に遭ったものの、今では関心も薄れ、前と同じような暮らしを送れている。ただ一つ、藍の「ナタデココグミで勝ったんです!」という発言の影響により、ナタデココ関連商品(特にグミ)が空前のブームとはなっていたが。
「あなたが、佐野藍さんね」
 そこに一人の女性が突然、声を掛ける。
「……うん、そうだけど、誰?」
「近付かないで」
 呑気な藍と背が高い女性の間にすっと、ゆかりが割り込む。
「あなたは、誰?」
 警戒心を露にして、女性の方が聞く。
「そうね、あなた達の目的、クロスフィア研究所の目的を阻止する存在ね」
「……PAU?」
「Protection of Another world’ Union」
「なるほど、そういうことね」
「また別の機会に話しましょう、ミナコ」
 もう女性は、驚くような素振りを見せない。まるで「知られていて当たり前」とでも言うように。
「そうするわ」
 ミナコは名刺を渡し、その場を去る。
「結局、誰だったの?」
ノートパソコンを操作しながら、佳奈がゆかりに聞く。
「ちょっとした知り合いよ」
「でも『もう一つの世界』って……」
「そのうち嫌が何でも知ることになるから。今は知らなくても問題ないわ」
 ゆかりは福岡タワーの方を見ながら、言う。
「その時、どのような選択をするのか、楽しみだわ」

***

 北九州市のアトラクション施設。宇宙船を模したモニュメントの下で、ゆかりとミナコが会う。
「計画は成功、といった所かしら」
 ゆかりが先に口を開く。
「何故、こんなことを?」
 ミナコが尋ねる。飛翔体襲来の犯人がゆかり達、と決めてかかってのことであったが。
「さあね。まあ、皆に『認識より次元が高い世界』に生きていると、認識させるためかしら?」
 ゆかりもそれを否定しない。
「おかげで世界はめちゃくちゃです」
「その方が、あなた達にとって都合がいいでしょう? 『世界』を選択させるのに」
「……それを、何故知っているの?」
 そのことについてはクロスフィア研究所内でも最高秘密、所長であるミナコはじめ数名しか知らないはずである。
「こんなことをしている私が、知らないとでも?」
 はっ、と、ミナコは気付く。
「もしかして、あなたは──」
「さあね。調べれば、判るかもしれないけど」
 ゆかりはミナコの言葉を遮る。否定もせず、認めもせず。
「では、これにて」
 ゆかりは微笑み、その場を去る。一人残るミナコ。
「向こうに構ってばかりも、いかないようね」
 ミナコは突然、指を鳴らす。すると一人の女性がすっ、と現れる。
「あの子について調べて。なるべくなら、向こうに気付かれないように」
「了解」
 そしてまた、ミナコは一人になる。

終わり