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 上小田井駅。鶴舞線の終点であり、そして鶴舞線では最後に出来た駅である。昔この付近には犬山線平田橋駅があったが、地下鉄との相互直通運転にあたりその駅を廃止・高架化して上小田井駅を作ったという経緯がある。ホームは二面四線で、内側を鶴舞線・外側を名鉄犬山線が使用。駅北側には留置線が二本用意されており、上小田井終点の電車はそれを利用して折り返す。
 名古屋第二環状自動車道が上に通っており、下は国道三〇二号を跨ぐように駅が作られているため、駅舎は北側と南側に分かれている。駅は反対側の結節点・赤池駅とは違い名鉄管理でホームの表示も名鉄側の仕様であるが、名古屋市交通局からの連絡を受け乗客の避難が行われた。
 乗客達の避難場所として使われている駅南側のバスロータリー、そこに白いキャビネットのトラックは複数台入ってきた。それらのトラックが停止すると、同時に扉が開き、中から紺色一色に身を固めた隊員達が降りてくる。ヘルメット、身体は防弾チョッキで身を固めた装束。顔は個人の特定が不可能なように目以外の部分を覆う。愛知県警の場合は警備部機動隊に所属する、特殊急襲部隊・SATの隊員達である。
 彼らはサブマシンガンを抱え、南改札を通り、左右に分かれて階段を上る。ホームへたどり着くと一部は線路に降り、残りはサブマシンガンを構えた。
 それに先立ち、トンネル入り口付近には県警ヘリがやってきて低空でのホバリングを行っていた、その爆音を近隣の住人達が気にし始めた頃、ヘリから数名の隊員が降りる。こちらもSAT隊員。この付近にはレール保管場があり、左右の幅が広く取られている。このことを利用して、線路脇で列車を待つ。
「本部へ。準備完了」
 隊長が一言、無線で告げた。

***

 悪天候で上小田井駅が使えない時には折り返し地点となる、対向式ホームを持つ駅・庄内緑地公園駅を通過し、いよいよ地上へ。藤枝達は緊張して、その時を待つ。
 地上からの光が入り何も見えないほど眩しくなる。そんな一瞬のタイミングを衝いて銃撃が始まった。銃撃は車両の床下を狙っている。間もなく車両全体の駆動力が抜け、故障と判断されることで非常ブレーキが動作を始めた。上り坂ということも相まって、スピートの落ち方は激しい。次の一瞬、音響閃光弾(スタングレネード)が炸裂。それに合わせて先頭車両のガラスが簡単に割られ、SATが突入する。
「愛知県警です。武器を放棄し投降しなさい」
 両手両足を押さえ込んだ状態で告げられては反抗することも出来ない。隊員によって体中を探られ、持っていた拳銃が回収される。合計二丁。
 そこに藤枝達がやって来て、手錠を掛ける。
「刑法百二十五条の往来危険及び銃刀法違反の容疑で現行犯逮捕する」
 そう告げ、手錠を掛けたのは藤枝。
「時間は、十三時四十分ね」
 森岡が時計を見て、時間を取る。被疑者は、名古屋市交通局の制服を着ていた。
「詳しい話は後ほど聞くとして、あなたは職員なの?」
 森岡の問いには無言。
「ATCまで解除するってことは、よほどこの車両に精通している。調べさせてもらったよ。日進工場の職員の中で、連絡が取れないのは一人だけだった。水主さん、でいいのかな」
「……そうだな」
 犯人は一言だけ。
 線路は出動した各機関でいっぱいになる。生化学兵器の拡散も想定し警察のNBC対策車や自衛隊の関係部隊も出動していたし、名古屋市消防局の救急隊をはじめ、名古屋第一赤十字病院などの救護班も多数編成されて活動を行っている。
「あまり目的が判らない事件だったわね」
 森岡が呟く。
「鉄道ジャックなんてメリットが少ないことを、どうしてやったのか、確かに不思議だよ。機長が亡くなったあのハイジャックよろしく、欠陥を証明するための犯行? まさか、ね」
「今度公安に聞いてみたらいいかも」
「教えてくれる部署だとは思えないけど」
「副本部長を通せば大丈夫じゃない?」
「そうだね、今日聞いてみるか」
 二人は庄内緑地公園駅まで歩き、まだ運転再開して間もない鶴舞線の、青いラインが入った車両へ乗った。

おわり