机上詩同好会、その後。

第二章

 少年はLL準備室に居た教師に許可をもらい、視聴覚教室へと入る。教室前面のホワイトボード、入ってすぐの所にある移動式の黒板。教卓と、折り畳み式の机。そして、ボロボロの生徒用机。見た目は全く変わっていなかった。
 少年は生徒用机に目を向ける。相変わらず落書きがあふれた天板、しかしそこに詩は一編もない。全てを探して、一編もない。少年は膝から崩れ落ちた。
「そっか──もう机上詩同好会は、ないもんな……」
 視聴覚教室を使うのは主に一年のみ、新年度になれば今まで詩を書いてくれたメンバーもいなくなる。その現実が耐えられなくて、少年は目を瞑った。

──なんで僕は、平川さんのことを忘れていた?
──そりゃ、生きるためだろ
──つらいことを忘れなきゃ生きていけないからな
──大事な人、だったのに?
──大事な人だったからこそ、記憶していることに対する負担は重い
──負担を軽くするため、忘れてもいいのか?
──彼女が、好きじゃなかったのか?

 自問自答の中、少年にはある笑顔が浮かぶ。少女の表情。部活を作ろうと言ったその時の顔。詩を写していた時に見せた顔。少年は、失いたくないと思った。

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少年がふと気づくと、下校時刻十分前のメロディーが鳴っていた。時が過ぎるのも早いな、と少年は感じる。少女が亡くなってから既に半年ほどが過ぎたが、一時的に忘れはしたものの記憶を取り戻してからはまるで昨日の出来事のような感触が少年にはあった。
 少年は、心の中で呟く。
(たとえそれが負担になるとしても、彼女のことは忘れなくない。自分に思いを寄せてくれ、また思いを寄せた人だから。でも──時々、忘れそうになるかもしれない。そんな時はまた、この場所に来て思い出そうか。この部屋で過ごした日々を)
 そして、一つの「机上詩」を天板に書き付ける。

机の上に書かれる詩に興味を持った少女がいた。
同じクラスの少年が書いたものに好意を抱いた少女は、
思い切ってその少年と会話し、そして2人である組織を結成したのだ。

その名は、机上詩同好会という。

 少年は笑顔で、視聴覚教室を出ていった。