机上詩同好会、その後。

エピローグ

 九月。少年は誓いを胸に、視聴覚教室へと来ていた。だがやることもなく、ボーッとしている。そこに
「せんぱい」
 女子生徒が後ろから声をかけた。髪は肩の少し上、正面から見ると丁度顎のあるラインまで伸ばし、眼鏡をかけた生徒である。彼女は一年生で、理科部では少年の後輩に当たる。
「こんな所で何してるんですか? 部誌作成で忙しいし、吹奏楽部の迷惑にもなりますから、サボってないで早く理科部に来て下さい」
 少年は女子生徒の方を振り返り
「ああ、わざわざ探しに来てくれたんだ、柳橋さん」
 やさしく微笑み返した。
「でもなんでこんな所に……」
 「柳橋さん」と呼ばれた女子生徒が尋ねると、少年は何かを考える様子を見せつつ答える。
「ちょっと、琴美さんのことを思い出しててね」
「『コトミさん』って、誰ですか?」
 聞き覚えのない名前だったので、興味本意ながら女子生徒は再び聞いた。言葉に迷いつつ、少年は簡潔に言い表す。
「ここで俺と過ごし、恋し恋された少女の名前、とでも言えばいいのかな。もう半年以上前だけど」
「で、『コトミさん』は、今は?」
「──亡くなったよ」
「え……」
 女子生徒はショックを受けたようだった。しかしすぐに
「だったら彼女の分まで学校生活を楽しめばいいじゃないですか。もうやってるかもしれない、ベタな考えですけど」
 照れくさそうな表情。少年は微かに頷くと微笑み、
「そうだな。──じゃあ、そろそろ行くとするか」
 座っていた席から、立ち上がった。
「はい! ──ん?」
「どうした?」
 女子生徒はふと上を見上げ、それに気付いた少年がとっさに尋ねる。
「いえ、何でもありません。強いて言えば、乙女のインスピレーション?」
「何だ、それ」
「いいから行きましょ!」
 女子生徒は少年の腕をつかみ、引っ張りながら歩き始めた。
「それはそうとせんぱい、私のことは下の名前で呼ぶんじゃありませんでした?」
「そんな約束、したか?」
「とにかく、喜久花って呼んで下さい!」
「キッカー?」
「き、く、か、です!」

fin